公募研究
本研究の計画は、乳児はどのように多様な感覚情報を統合して現実の環境世界の物体を認識し言語獲得に至るのか、その多感覚統合過程を、言語獲得前後の乳児に着目して実験的に検討することであった。言語獲得直前の乳児(生後7ヶ月-11ヶ月)を対象に、さまざまな感覚の統合過程を明らかにする実験研究を行うこととした。まずは言語獲得直前の乳児を対象に、視覚印象と聴覚が一致する課題を、近赤外分光法(NIRS)を用いて検討し、実験を行っているところである。実験の目的は、視聴覚統合は言語獲得前の乳児でも成人と同様の右側頭で処理される可能性を明らかにすることにあり、現在ほぼデータを取り終え論文執筆準備中である。さらに、現実のリアルな質感を持った素材に基づく「物体」に多様な感覚が統合される発達過程についても同様の課題で検討した。質感があり身近にある「木」と「金属」を叩いている時の視覚映像と音の一致の認識が発達的にいつ頃生じるか、近赤外分光法(NIRS)を用いた実験と学習実験によって検討した。その結果、物体によって統合時期が異なることが判明した。現在この結果をもとに論文投稿中である。これまでのクロスモダリティの発達研究は、視聴覚の同期する「事象」に着目して行われてきた一方で、リアルな質感を持つ「物体」を認識に必要な統合過程については検討されてこなかった。今後、リアルな現実をどのようにデータとして取得するかを検討していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、学術論文(国際誌)が6本、海外での発表3件、国内での発表12件を行った。本年度は新学術領域内の共同研究として、言語獲得前の乳児であっても成人と同様の色カテゴリの変化に対する側頭の脳活動(色カテゴリに感度のある部位)を観察し、Proceedings of the National Academy of Sciences に発表することができた。さらに、2015年12月に刊行されたCurrent Biologyの研究において、生後3ヶ月の乳児は成人には気づかない照明光の変化に気づくことができるが物体の質感の変化には気づくことができず、生後7ヶ月になると成人と同様に、照明光の変化には気づかずに物体の質感の変化に気づくことができる現象を発見し、「pre-constancy」という新たな概念を提唱することができ、海外のサイトニュースで取り上げられた。尚、平成29年6月30日付で新学術領域研究(研究領域提案型)が新規採択され、当課題が重複制限課題となり平成29年度の受給資格を失ったため、平成28年度が最終年度となる。
平成29年6月30日付で新学術領域研究(研究領域提案型)が新規採択され、当課題が重複制限課題となり平成29年度受給資格を失ったため、平成28年度分にて研究終了となる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 3件、 招待講演 5件) 図書 (2件)
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Current Biology
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