本研究の計画は、乳児はどのように多様な感覚情報を統合して現実の環境世界の物体を認識し言語獲得に至るのか、その多感覚統合過程を、言語獲得前後の乳児に着目して実験的に検討することであった。言語獲得直前の乳児(生後7ヶ月-11ヶ月)を対象に、さまざまな感覚の統合過程を明らかにする実験研究を行うこととした。まずは言語獲得直前の乳児を対象に、視覚印象と聴覚が一致する課題を、近赤外分光法(NIRS)を用いて検討した。実験の結果、視聴覚統合は言語獲得前の乳児でも成人と同様の右側頭で処理される可能性が明らかになった。現在この結果をもとに論文執筆中である。さらに、現実のリアルな質感を持った素材に基づく「物体」に多様な感覚が統合される発達過程についても同様の課題で検討した。質感があり身近にある「木」と「金属」を叩いている時の視覚映像と音の一致の認識が発達的にいつ頃生じるか、近赤外分光法(NIRS)を用いた実験と学習実験によって検討した。その結果、物体によって統合時期が異なることが判明した。現在この結果をもとに論文投稿中である。これまでのクロスモダリティの発達研究は、視聴覚の同期する「事象」に着目して行われてきた一方で、リアルな質感を持つ「物体」を認識に必要な統合過程については検討されてこなかった。しかし現実環境で生活する上で、物体を認識する高次な統合が必須である。乳児が発達していく現実環境を検討する上で、乳児の日常環境を乳児の頭部にカメラを設置し撮影することにより収集するプロジェクトも開始しており、これは継続して検討を行いたいと考えている。
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