研究実績の概要 |
本研究では、ヒトの質感知覚の種を超えた普遍性や多様性、生後の経験の影響を明らかにするため、ヒトに最も近縁な動物であるチンパンジー、ヒトの子どもを対象に食物の鮮度や人工物の光沢感などの質感の知覚、絵画の配色に対する選好について検討した。 まず、チンパンジーとヒトの成人を対象に、複数の野菜の画像から鮮度の平均を知覚できるかについて調べた。鮮度の異なる野菜の画像を6枚ずつ、左右に1秒間呈示したところ、チンパンジーもヒトも、鮮度のより高い画像セットを選択できたことから、鮮度の平均を知覚できる可能性が示唆された。 次に、コンピュータグラフィックスにより作成された人工物の光沢の識別について、ヒトの児童と成人、チンパンジーを対象に検討した。4枚の画像の中から、1つだけ光沢の強さの異なる画像を選択する課題を実施した。その結果、ヒトでは、低学年の児童(6歳から9歳半)から高学年の児童(9歳半から12歳)にかけて正答率が増加すること、高学年の児童では、成人と同程度の正答率に達することが示された。一方、チンパンジーでは、すべての形状、光沢の強さの条件において、ヒトよりも正答率が低かった。したがって、ヒトとチンパンジーでは、人工物の光沢の強さの識別に違いがある可能性が示唆された。 最後に、絵画の配色に対する選好についてヒトの児童を対象に検討した。成人では、絵画の色相を90度ずつ回転させて作成した4種類(0, 90, 180, 270度)の中から最も好きな配色の絵画を1つ選択させると、0度、すなわち原画の配色を選択する割合が最も高くなることが示されている。本研究では、6歳から12歳のヒトの児童を対象に、成人と同様の原画に対する選好が生じるかどうかについて検討した。その結果、低学年から高学年にかけ、原画の配色に対する選好が増加することが示された。
|