研究実績の概要 |
質感知覚は様々な感覚から入力された情報を処理するだけでなく、予測、意思決定、身体制御、感覚運動フィードバックなどを含んだ、多感覚的、適応的、能動的なプロセスの結果として生じる。食質感知覚はこのようなプロセスを考えるうえで最適の題材である。それは食質感知覚には「食べる」という能動的な動作によってもたらされる感覚フィードバックの情報が大きく貢献しているからである。 これまで咀嚼音をフィードバックして食質感を変容させる様々な研究が行われてきたが、フィードバックの時間ずれや、利用できる食品の物性上の制約が課題であった。我々は近年、咀嚼に完全に同期したフィードバック音を、あらゆる物性の食品について返すことができる画期的な手法を考案した。それは咀嚼音そのものではなく咀嚼時の咬筋の筋電波形を音に変換したものをフィードバックするという手法である。 今年度の実績としてまず単純に筋電波形をそのまま音に変換してリアルタイムにフィードバックしただけでも、噛みごたえやざらざら感といった食質感が変化すること、さらに高次質感(高級感、新鮮さなど)や行為主体感(食べている実感など)が変化することを示した。この成果はPhysiology & Behavior誌に掲載された(Endo, Ino & Fujisaki, 2016)。 次に、咬筋の筋電波形のエンベロープを取り出して任意の音信号を振幅変調して出力できるように装置を改良し、漬物音をフィードバックする実験を行った。その結果、筋電音をそのままフィードバックするよりも、介護食の漬物を噛んだ時の違和感を減少させることに成功した。この成果はヒューマンインターフェースシンポジウム2016で優秀プレゼンテーション賞を受賞し(遠藤・金子・井野・藤崎, 2016)、またJACIII誌に論文が掲載された(Endo, Kaneko, Ino & Fujisaki, 2017)。
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