前年度に引き続き、国際組織「ラテンアメリカ・カリブ先住民基金 (FILAC)」を調査し、 先住民の人権保障の場として政府と先住民組織が同数で代表・運営する組織がどのような影響を与えているのかを調査した。資料収集とインタビュー調査はFILACを援助を通じて継続的に支援しているスペイン、先住民人口が少数である国の事例であるパナマ、同人口が多数である国の事例であるボリビアにて実施された。また、先住民に関する政策決定にエクアドルで携わった実務者を招いて、東京で12月に講演会を実施した。昨年度の研究結果と総合して、次のことが判明した。 (1)FILACに参加する政府は自国の先住民代表の選出に介入することがよく見られる。 (2)しかしながら、(1)の状況はFILACの完全な無力化を引き起こしていない。1990年代のFILACは多文化主義を保障する憲法改正、土地をめぐる先住民の紛争など、困難な案件に積極的に関わっていた。これは、先住民運動がラテンアメリカ地域全体に活発化し、国内外で政策に影響を与えようとする先住民の動きが活発になる一方、政府側もそうした国際的な圧力を利用して、先住民に関わる問題に対応することで、自身の政治的な成果とすることを目論んだことによる。 (3)21世紀に入ると、FILACをめぐる先住民側の期待が分裂することになる。先住民組織の中に各国政権の政策決定に参加するものが増えたことで、FILACを異議申し立ての場として有力視しなくなる傾向が出てきた。逆に、政権や他のNGOとの接点に乏しい先住民組織はFILACに何らかの期待を持つ傾向が見られた。 上記の結果は12月に口頭発表がなされた。本発表をもとにした最終成果はグローバル関係学に関する書籍に収められ、早ければ2019年度に発行される予定である。
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