研究領域 | グローバル秩序の溶解と新しい危機を超えて:関係性中心の融合型人文社会科学の確立 |
研究課題/領域番号 |
17H05122
|
研究機関 | 駒沢女子大学 |
研究代表者 |
牧野 冬生 駒沢女子大学, 人文学部, 特任准教授 (50434387)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 慰霊 / 記念的祭祀 / 共通の当事者性 / クメールルージュ / 被害者 / 加害者 |
研究実績の概要 |
本研究の初年度にあたる平成29年度の研究成果は、以下の通りである。平成29年度は、主に公共化された負の記憶のフィールド調査を8月、9月、ローカルな慰霊空間のフィールド調査を1月に実施した。その実施内容から、3つの問題系における論点を整理し、問題点を抽出することができた。 1)公的な慰霊の空間と記念的祭祀の実態(国家や公的機関による被害者・加害者の分別)については、1月のクメールルージュからの解放デーにプノンペン郊外のチュンエク村のキリング・フィールドとプノンペン市内のSecurity Prison 21 (S-21) 訪問し、記念的祭祀の実態を調査した。また、GMS諸国(ベトナム)において、どういった「公共化された負の記憶」が存在しているのかについても把握することができた。 2) ローカルな慰霊の空間と儀礼実践(小規模コミュニティ内における匿名的加害者との共存)については、スバイリエン州におけるコミュニティや家族内部で公にされずに密かに引き継がれてきたローカルな慰霊空間について調査を行った。 3)負の出来事に関する「共通の当事者性」の興起プロセス(次世代への記憶継承の道筋)については、公的な慰霊の空間と記念的祭祀において、比較的安定した時代の若年世代(20~30代)がどういった関心事を持っているかについてインタビュー調査を実施した。 本研究成果の一部は、2017年11月に開催された第28回国際開発学会の『全国大会発表論文集』で公表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の各課題における進捗状況は、以下の通りである。 1)公的な慰霊の空間と記念的祭祀の実態(国家や公的機関による被害者・加害者の分別)については、主に1991年以降に整備された公的な慰霊空間(プノンペン郊外キリング・フィールド、知識人収容拠点のS21)について調査を実施した。そこでは、負の遺産(虐殺等)の博物館展示に関わる一定の歴史観と公的な慰霊空間の特性について把握することができた。 2) ローカルな慰霊の空間と儀礼実践(小規模コミュニティ内における匿名的加害者との共存)については、スバイリエン州におけるローカルな慰霊の空間の調査を実施した。特に寺院にある慰霊の空間(ストゥーパ)の成立等について僧侶やドンチーへインタビューを行い、個別の記憶継承の実態について把握することができた。また、仏教寺院における寺小屋的教育(若い修行僧への初等教育)において、負の出来事がどのように取り扱われているのかについても把握することができた。 3)負の出来事に関する「共通の当事者性」の興起プロセス(次世代への記憶継承の道筋)については、若年世代(20~30代)が負の遺産の継承と仏教儀礼についてどのように考えているかについて、インタビューを基に把握することが出来た。また、体験的な知識を持つ親世代と若年世代の間にある負の出来事に関する知識・認識ギャップについても把握することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究の2年目にあたる平成30年に向けては、前年度に抽出した問題点を踏まえて、各テーマの一層の深化をはかり、また研究報告書の作成に重点を置く。また、平成29年の研究成果を基にして、米国応用人類学学会(SfAA:Society for Applied Anthropology)にて口頭発表を実施して、議論を深めていく。 また、平成30年に予定しているフィールドワークにおいては、平成29年度にできなかった公的な負の遺産における調査を追加で実施すると共に、カンボジアと他の地域(国)における公的な慰霊空間とその表象との差異を確認したい。 被害者と加害者の枠組みが意味付け直される「共通の当事者性」の興起プロセスについては、個別の記憶継承の場がどのように形成され現在に引き継がれているのか、より具体的な実態から見ていくことが必要である。それによって、被害者と加害者がそれぞれ抱える体験的で動的な記憶を、言葉による静的な記憶に置き換える内面的過程を把握することが可能となる。
|