本研究の最終年度にあたる2018年度の研究実績は、以下の通りである。 2018年度は、2017-2018年度に実施した「負の出来事」に関するフィールドワーク調査、文献調査に関わる研究成果をまとめ、「共通の当事者性」の理論化に努めた。本年度のフィールドワークでは、農村のコミュニティや家族内部で公にされずに密かに引き継がれてきたローカルな慰霊空間についてインタビュー調査した。主な調査地域は、プノンペン特別区、スバイ・リエン州の複数の農村地域である。農村に存在する負の出来事を想起させる場所(小規模キリング・フィールド等)の多くは日常生活の中に埋もれており、負の場所と記憶は断絶に向かっている。そのため、空間調査においては、コミュニティー・リーダーや僧侶・アチャー等から情報を得た。また、農村の仏教寺院では、被害者の慰霊ストゥーパの空間的特徴の把握を行った。慰霊の儀式の調査では、ローカルな慰霊空間を通して住民にどのように負の出来事が認識され、語られているのかについて把握した。こうしたフィールド調査から、「共通の当事者性」を育む空間性と宗教儀礼プロセスを把握できた。 また、仏教儀礼の中では被害者と加害者が明示的に区分けされない一方で、政治的な意味合いの強い慰霊式典では加害者が強く非難される。こうした対象的な場面性を、本研究で進行している「共通の当事者性」の形成プロセスと繋げる必要性を認識できた。また、研究成果を広く公表するため、海外論文誌への投稿に向けて準備を進めている。
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