研究領域 | グローバル秩序の溶解と新しい危機を超えて:関係性中心の融合型人文社会科学の確立 |
研究課題/領域番号 |
17H05123
|
研究機関 | 国立情報学研究所 |
研究代表者 |
水野 貴之 国立情報学研究所, 情報社会相関研究系, 准教授 (50467057)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | グローバリゼーション / モビリティ / 複雑ネットワーク / ビッグデータ / 計算社会科学 / 情報保護 |
研究実績の概要 |
モビリティと労働市場に関するビッグデータを用いて,(1)ビッグデータの整備と可視化,(2)手法開発,(3)モビリティへの手法適用,(4)労働市場への手法適用,(5)政策立案の科学的支援について研究を進め,社会ネットワークの中での各コミュニティの孤立主義化の動向をとらえる.平成29年度は,(1)から(3),及び(5)について次の研究を実施した. (1)ビッグデータの整備と可視化では,テロ事件や難民問題を抱えるヨーロッパを中心にしつつ,全世界を対象にエリア間のモビリティに関するデータを整備した.主要なエリア間の移動に重みを付けたネットワークの粗視化手法を提案し,ノード(経済主体)とリンク(経済主体間の繋がり)によるグローバルな人々の移動の可視化をおこなった. (2)手法開発では,時空間ビッグデータにおける異常値検出と,異常値のクラスタリングによる時空間イベントの検出技術を構築した.人々の移動履歴を加味した2次のマルコフ過程でのコミュニティ抽出手法を構築した.しかし,本手法は少数データへの適用が困難であり,その結果,コミュニティの時間変化を高解像度で観測することができない.この問題は,(1)の粗視化により解決できることが見込まれている. (3)モビリティへの手法適用では,フランスのパリ郊外における多民族地域に着目し,(2)で構築した2次のマルコフ過程によるコミュニティ検出の手法を用いて,地域住民の日常生活におけるコミュニティ空間を抽出した.これにより,様々な場所で発生した社会イベントにおいて,出身コミュニティの偏りが発生していることを観測できるようにした. (5)政策立案の科学的支援では,モビリティに関するビッグデータを用いた政治的なデモ等の特徴分析を通じて,将来予測されるデモ等に関する分析技術の発展が生み出す倫理的な問題と,それを解決するための集団に対する情報保護の重要性を指摘した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画に比べて,労働市場に関する研究に遅れがある一方で,モビリティに関しては当初の計画以上に進んでおり,総合的に考えると(2)おおむね順調に進展していると考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度も,社会ネットワークの中での各コミュニティの孤立主義化の動向をとらえるために,モビリティと労働市場に関するビッグデータを用いて,(1)ビッグデータの整備と可視化,(2)手法開発,(3)モビリティへの手法適用,(4)労働市場への手法適用,(5)政策立案の科学的支援の順に研究を進めていく.具体的には, (1)ビッグデータの整備と可視化では,直近のデータの更新をおこないつつ,社会ネットワークの中でのコミュニティ間の協調と排他的行動を可視化する. (2)手法開発では,ネットワークを粗視化することにより,少数データでのコミュニティ検出が可能な技術を構築する. (3)モビリティへの手法適用では,(2)で開発した技術を用いて,生活コミュニティ間での住民の協調と排他的行動が変化する事件や政策変更等のイベントを検出する. (4)労働市場への手法適用では,(2)で開発した技術を用いて,労働市場におけるコミュニティを抽出し,コミュニティ間をまたぐ転職の困難さが事件や政策変更等により,どのように変化しているのかを示す. (5)政策立案の科学的支援では,生活コミュニティ間の協調の強化と転職格差の是正が進んだ政策について示す.
|