公募研究
現代人および2万4千年前のマリタ古人骨のゲノムデータなどからも、現生人類の東アジアへの拡散における北周りルートの存在は確認されるが、その詳細については未だ明らかではない。北周りルートを通る移動の波を含め、東アジア人集団形成過程に関する疑問に答えるためには、既存のデータだけでは不十分であり、さらなる古人骨ゲノムデータの収集が必要不可欠である。本研究では、ロシアの共同研究者を通じて、シベリアの古人骨試料の三次元形態を計測した上で、骨片の採取を行い、全ゲノム解析に耐えうるDNAが抽出できるかの可能性調査を行う。さらに、mtDNAや核ゲノムの特定の遺伝子領域を用いて、試料となる個体の系統的位置や表現型を推定する。そして、最も状態の良い試料を選別して、全ゲノム解析を試み、集団遺伝学的解析により過去のヒトの移動および集団形成過程について明らかにする。新学術領域研究「パレオアジア」の目的は、アジア大陸部でそれ以前の石器文化を担った原人や旧人が如何にして絶滅し、現生人類に取って代わったのかを実証的に明らかにすることであり、本研究ではシベリアの古人骨を用いてゲノム解析をすることで、当該領域に貢献する。さらなる古人骨のゲノム解析によって、「交替劇」に関わる現生人類の拡散ルートを解明することが可能となる他、デニソワ人を含む旧人や原人と現生人類との混血が検出される可能性も秘めている。また、本研究は、東アジアにおける所謂“モンゴロイド”的形質の進化の謎を解き明かす鍵を提供する。
2: おおむね順調に進展している
2017年7月にロシア・ウランウデにあるThe Institute for Mongolian, Buddhist and Tibetan Studies (IMBTS), the Siberian Branch (SB) of the Russian Academy of Science (RAS)を訪れ、新石器時代~中世にかけての29個体の古人骨試料を採取した。このうち、14個体からは歯石試料の採取も行なうことができた。また、頭蓋骨全体がよく保存されている個体については、三次元スキャナーを用いて三次元デジタル画像を撮像した。29個体の古人骨試料のうち、15個体からDNA抽出を行なった。抽出DNAのピークサイズは、100kb以下のものがほとんどであり、DNAの断片化が進んでいることが示唆された。次に、抽出DNA濃度の比較的高い検体を10個選出し、DNAライブラリーを作成した上で、次世代シーケンサーMiSeqによるシーケンシングを行なった。シーケンシングの結果、ヒトゲノム配列にマップされる率を調べると、新石器時代の5試料では0.48~6.86%、未確定だがおそらく青銅器時代と目される3試料では2.31~24.90%、中世の2試料では14.92~62.01%であった。これらの値は、高いほどバクテリア配列などのコンタミネーションが少なく、ヒト由来配列を効率よく読むことができることを示している。現在、これらの試料について放射性炭素年代測定も進めている。
引き続き、試料からのDNA抽出およびライブラリー作成を進めていく。今後、ヒトゲノム配列へのマップ率の高かった検体について、さらに深くシーケンシングすること、あるいは、エクソンキャプチャーなどによりヒト配列を濃縮してシーケンシングすることを検討している。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
European Journal of Human Genetics
巻: 25 ページ: 499~508
10.1038/ejhg.2016.181
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