研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
17H05135
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
原田 潤 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (00313172)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子性固体 |
研究実績の概要 |
電荷移動錯体(CT錯体)とは電子供与性の分子(ドナー)と電子受容性の分子(アクセプター)からなる分子間化合物である.本研究では,極性を持ち,結晶中でも運動可能な芳香族分子をアクセプターとし,無極性の多環芳香族炭化水素をドナーとするCT錯体結晶を作製した.結晶中における極性分子の面回転運動による配向の乱れと,低温での秩序化を利用して結晶の相転移を発現させる.特に,結晶中での分子配向の乱れにより,高温相では二次元的に高対称性の結晶構造をもつ「二次元柔粘性結晶」とも呼べる電荷移動錯体結晶群に注目して検討を行った.これらのCT錯体結晶で見られるπ電子系分子の面内回転,配向の秩序-無秩序化に由来する相転移とそれに伴う結晶格子の対称性変化などに注目し,様々な機能発現へとつなげることを目指す.更に,高温で極性分子の回転により配向が乱れた無極性の構造を持つ結晶が,低温で配向が秩序化した極性構造の結晶へと変化する相転移を誘導することで,分子性強誘電結晶を開発すること目指した. 平成29年度は多環芳香族炭化水素をドナーとし,無水フタル酸誘導体,あるいは,ニトロベンゼン誘導体などの極性分子をアクセプターとして用いたCT結晶について検討を行った.これらのCT錯体の結晶を蒸発法により作製した.DSC測定および温度可変X線回折測定により,CT結晶の多くにおいて,構造相転移が起こることが分かった.それらの結晶では,高温相では極性分子の配向に乱れがあり低温相で配向が秩序化する,秩序-無秩序型の相転移が起こっており,高温相で極性分子の面内回転運動に由来する誘電応答(配向分極)を示すことが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作製した多くのCT錯体結晶において,極性芳香族分子が面内回転運動を行い,それに由来する誘電応答と相転移を示すことが分かった.従ってこのタイプのCT錯体結晶は極性分子の回転と相転移による分子環境の対称性変化が比較的容易に起こり,強誘電体結晶探索の有望なターゲットであることが明らかとなった.
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今後の研究の推進方策 |
既にいくつかのCT結晶において,強誘電性あるいは反強誘電性を示すことが期待される相転移が観測されている.そのような結晶について分極-電場ヒステリシス測定を行う.また,単結晶を作製して室温相の結晶構造と高温相の結晶構造を明らかにする.さらに,様々なドナー分子,アクセプター分子を含む新規CT錯体結晶を作製し検討を行う.
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