本研究では,結晶中でも面内回転運動可能な芳香族分子からなる電荷移動(CT)錯体結晶を中心に検討を行った.これらのCT錯体結晶で見られるπ電子系分子の面内回転,配向の秩序-無秩序化に由来する相転移とそれに伴う結晶格子の対称性変化などに注目し,様々な機能発現へとつなげることを目指した.更に,高温で極性分子の回転により配向が乱れた無極性の構造を持つ結晶が,低温で配向が秩序化した極性構造の結晶へと変化する相転移を誘導することで,分子性強誘電結晶を開発することを試みた. 平成30年度は無極性の多環芳香族炭化水素をドナーとし,無水フタル酸誘導体あるいはフタロニトリル誘導体などの極性分子をアクセプターとして用いたCT結晶について検討を行った.これらのCT錯体の結晶を蒸発法により作製した.DSC測定および温度可変X線回折測定により,CT結晶の多くにおいて,構造相転移が起こることが分かった.それらの結晶では,高温相では極性分子の配向に乱れがあり低温相で配向が秩序化する,秩序-無秩序型の相転移が起こっており,高温相で極性分子の面内回転運動に由来する誘電応答(配向分極)を示すことが明らかとなった.また,いくつかのCT結晶は室温で極性点群に属する結晶構造を持ち,自発分極があることがわかった. また,結晶中で回転運動可能な分子からなる有機イオン結晶を作製した.それらの化合物のいくつは,高温で柔粘性結晶となり,温度低下に伴い相転移して,結晶格子の対称性が変化し,室温では強誘電性および圧電性を示すことを見出した.
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