研究実績の概要 |
中心にリン原子を架橋部に3つの酸素原子をもつおわん型分子ホスファングレンはフラーレンの分子認識やキラル一次元自己集積体など、おわん構造を利用した分子集積体の構築に利用できる。これまでに、架橋する3つの酸素原子を硫黄原子に置換することで、おわんの深さを制御できることを報告している(Org. Lett. 2016, 18, 816)。これらの化合物はC3v対称またはCs対称のアキラルな構造をとる。 酸素と硫黄で架橋したホスファングレンに側鎖を導入したキラルなおわん型分子を合成し、おわんの深さとキラル特性の関係の解明を目指した。これまでに、架橋部に3つの酸素原子をもつホスファングレンのベンゼン環のリンのメタ位にフェニルエチニル基を置換したキラルおわん型分子を合成している。今回、1つの硫黄と2つの酸素で架橋したキラルおわん型分子と、2つの硫黄と1つの酸素で架橋したキラルおわん型分子を新規に合成した。 導入された硫黄原子が光学特性に与える影響を調べたところ、架橋する硫黄が増えるほど、吸収、蛍光ピークはともに長波長シフトすることが明らかとなった。分子軌道計算よりHOMO軌道とLUMO軌道を算出すると、導入された硫黄は分子全体の共役に関与していた。また、HOMO-LUMOギャップは架橋する硫黄が増えるほど小さな値を示しており、実験結果とのよい整合性を示していた。 キラルおわん型分子のはいずれも強いコットン効果を示したが、コットン効果の強度はいずれも同程度の値であり、おわんの深さがキラル特性に与える影響は小さなものであると考えられる。
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