研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
17H05143
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 顕 東京大学, 物性研究所, 助教 (20589585)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有機伝導体 / 水素結合 / 相転移 / 圧力効果 / 水素移動 / 電荷秩序 |
研究実績の概要 |
当研究者が開発した水素結合ダイナミクス-π電子連動型の純有機伝導体は、水素結合部の水素/重水素置換により低温下で大きく異なる結晶・電子構造を与える。特に、水素結合部が水素の化合物は、極低温まで相転移を示さないことから、水素とπ電子が互いに相関しながら量子的に揺らいでいることが示唆されている。このような現象は大変珍しく、そこで本年度はまず、この系の水素-π電子相関をより深く理解することを目指して、静水圧力下における単結晶X線回折実験を行った。その結果、圧力下低温で構造相転移が生じ、さらに加圧により相転移温度が上昇することが明らかとなった。格子定数を調査したところ、圧力下低温で水素結合部の水素が中心から変位し、局在化していることが示唆された。この相転移温度付近で電気抵抗率が急激に上昇していることから、水素の局在化に伴ってπ電子が移動し電荷不均化を引き起こしたと考えられる。従来の水素結合系物質では、圧力印可に伴い水素結合は収縮し、相転移温度が低下することが一般的であるが、本物質ではこれと逆の傾向を示している。水素結合ダイナミクスとπ電子の連動に基づく新現象であると考えられ、大変興味深い。 さらに本年度は、水素結合ダイナミクス-π電子連動型の新規な有機伝導体の合成にも成功した。上記の物質は、酸化された電子ドナー分子がアニオン性の水素結合で連結された単一のユニット構造から構成されているのに対し、今回合成した物質は対アニオンを含み、電子ドナーと対アニオン間に水素結合が形成されている。低温下において半導体-絶縁体転移を示し、その際にドナー分子の電子状態(価数)だけではなく、水素結合部も構造変化していることが示唆された。今後、構造・物性の詳細な調査を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素結合ダイナミクスとπ電子の連動に基づく新現象を発見し、さらに新規な水素-π電子連動系物質の開発にも成功したことから、本研究は順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
上述した新規な水素-π電子連動系有機伝導体の詳細な構造・物性調査を行う。放射光を用いた精密な単結晶X線構造解析により、相転移前後の電子構造・水素結合構造変化を分子レベルで理解する。さらに電気抵抗・磁化率測定やラマン分光測定も行い、構造-物性相関を明らかにする。対アニオンを置換した類縁体や水素結合部を重水素置換した類縁体も作成し、構造・物性の系統的な比較・考察を行い、この系における水素-π電子相関について総合的に理解する。
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