研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
17H05149
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
瀬川 泰知 名古屋大学, 理学研究科, 特任准教授 (60570794)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | π拡張反応 / 湾曲π共役化合物 / π造形 |
研究実績の概要 |
本研究では、新反応開発を基軸として新奇湾曲π共役化合物を合成することを目的としている。本年度の実績は大きく以下の4点である。 (1)巨大湾曲芳香族炭化水素「ワープドナノグラフェン」の誘導化反応の開発に成功し、これを中間体として水溶性ワープドナノグラフェンの合成を行なった。水溶性ワープドナノグラフェンはヒト培養細胞に取り込まれ、光照射によって選択的に細胞死を誘導する性質を示すことを明らかにした。 (2)3つの7員環をもつプロペラ型芳香族炭化水素の合成と構造的性質の解明を行なった。パラジウム触媒を用いた脱塩化水素型環化反応によって、予期しない7員環形成反応が進行することを発見した。得られたプロペラ型分子について、各種物性測定および量子化学計算を併せ用いることで、隣接する7員環構造によって[4]ヘリセンのらせん不斉が安定化されていることを明らかにした。これは今後キラリティをもつπ共役化合物を設計する上で有用な知見となる。 (3)芳香族炭化水素の新規チオフェン化反応を用いることで、市販の化合物から2段階でチオフェン含有π共役化合物を合成した。これらを鉛ペロブスカイト太陽電池のホール輸送層として利用したところ、ホール輸送層を用いない場合よりも光電変換効率が上昇したことから、ホール輸送剤として有用であることを明らかにした。 (4)コラニュレンを中心に有する5重[6]ヘリセンの合成および構造解析に成功した。この化合物は、5回の分子内直接アリール化を含む3段階で合成できた。X線結晶構造解析により、5回対称プロペラ型構造および固体状態での一次元配列が明らかになった。 (5)チオフェン縮環型ダブルヘリセンを合成し、溶解度と3次元πスタックを両立する分子を実現した。電界効果トランジスタデバイスに実際に組み込み、中程度のホール輸送能をもつことを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は「π拡張反応の開発」および「湾曲π共役化合物の合成」の両面について、当初の計画以上に研究を進展させることができた。 新規π拡張反応としては、(1)ワープドナノグラフェンのホウ素化反応を鍵とした2段階π拡張、(2)パラジウム触媒による脱塩化水素型環化反応による6員環および7員環の形成、(3)単体硫黄のみを用いたチオフェン化反応の改良法、の開発に成功し、これまで困難もしくは不可能だった様々な湾曲π共役分子の合成を可能にした。 新規湾曲π共役化合物としては、(1)水溶性ワープドナノグラフェン、(2)2種のプロペラ型芳香族炭化水素、(3)チオフェン含有ホール輸送材料、(4)チオフェン縮環ダブルヘリセン、の合成に成功し、国内外から非常に高い評価を得た。合成のみならず、水溶性ワープドナノグラフェンはその後バイオイメージングや光誘起細胞死といった生命科学のツールとしての応用可能性を示すとともに、ホール輸送材料は実際に電界効果トランジスタデバイスや太陽電池デバイスへ適用し有用性を実証した。 総合的に判断して、これらの成果は当初の計画以上である。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度の研究成果をさらに推進することを目標として、以下の方策を行う。 (1)ワープドナノグラフェンのπ拡張反応をさらに改良し、一度に10ヶ所の官能基変換を実現する。これによって、さまざまな官能基を一段階で多数導入できるようになるため、多様な湾曲芳香族炭化水素の開発が可能となる。ターゲットとする物性としては光吸収波長の長波長化、蛍光発光波長の長波長化、蛍光量子収率の増大である。これらの性質の付与に成功した場合、バイオイメージングや細胞死誘導といった応用に際してさらに有用であると期待される。 (2)ワープドナノグラフェンの類縁体として、湾曲構造を保ったまま密にπスタック可能な分子を開発する。これにより、これまでにない「湾曲πスタック」という現象を利用した新規ワイヤー状材料の開発へ繋げる。 (3)湾曲π共役炭化水素の新規合成法をさらに改良し、これまで実現不可能だった様々な分子の合成を行う。カテナン・ロタキサン・分子ノットといった、3次元的に複雑に絡み合うπ共役系の合成も行なっていきたい。
|