研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
17H05150
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
樫田 啓 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (30452189)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | DNA / エネルギー移動 / エネルギーマイグレーション / フェルスター理論 / ペリレン / アントラキノン |
研究実績の概要 |
本研究では2か年の研究期間において、1)DNA骨格を利用した蛍光色素の空間的配置がπ造形システムの物性に与える影響の解析、及び2)得られた知見を基にした新たな機能性π造形システムの構築について研究を行っている。本年度は主として1)について詳細に検討を行った。 同種の色素間のエネルギー移動であるエネルギーマイグレーション(EM)は天然光合成や人工光合成系において極めて重要な光化学過程であるがその詳細な実験的解析は困難であった。DNA骨格を利用すれば蛍光色素を望みの数・配向・配列で整列させることが可能である。そこで、DNAに二分子の蛍光色素(ペリレン)を導入し、そのうち一分子の近傍に消光色素(アントラキノン)を導入した。更に、蛍光色素間の塩基対数を変化させることによって蛍光色素間の距離・配向を制御した。二分子の蛍光色素間でEMが起きる場合は、離れた位置にある蛍光色素の発光もEMを介して消光されることを期待した。 実際にDNA配列を合成し定常蛍光測定を行ったところ、塩基対数に応じて蛍光強度が大きく変化することが分かった。更に蛍光寿命測定でも蛍光寿命の低下が観察された。蛍光強度変化及び蛍光寿命変化から算出したEM効率を塩基対数に対してプロットしたところ、EM効率が蛍光色素間距離だけでなく配向に大きく依存することが分かった。これらの実験値をフェルスター理論から計算される理論値と比較したところ、極めてよく一致することが明らかとなった。このように、二分子間のEMがフェルスター理論に厳密に従うことを実験的に明らかにすることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では1)DNAを利用した同種色素間エネルギーマイグレーション(EM)機構の解明、及び2)それを利用したπ造形システムの構築を目標として設定している。1)については今年度詳細な検討を行い、実験的に算出したEM効率がフェルスター理論と極めてよく一致することを明らかにすることができた。これらのことは同種色素間のEMを理論的に予測可能であることを示しており、本研究を推進する上で極めて重要な成果といえる。また、これらの知見を利用することで高効率人工光捕集アンテナや高輝度蛍光ラベル化剤の開発が期待できる。これらの研究成果は現在論文投稿準備中である。 また、2)についても検討を行い、蛍光色素を4分子導入した際の多段階エネルギー移動についても同様の手法で解析可能であることを明らかにした。 当初の目標通りこれらの成果を上げることができたことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において本研究を進める上で必要な同種色素間エネルギー移動の詳細な機構を明らかにすることに成功した。そこで、研究最終年度となる平成30年度においては得られた知見を基に機能性π造形システムを構築することを目指す。具体的には、三叉路や十字路などのDNA高次構造に多数のドナー分子を導入することにより高効率光捕集システムを構築する。その際、エネルギーカスケードの各段階の効率を理論的に予測することにより最適な色素数や間隔・配向などを詳細に検討する。また、高効率な光捕集を実現する上で最適なDNA高次構造についても明らかにしたい。これらのことが実現できれば、DNAを利用した系だけではなく他のπ造形システムの設計においても重要な知見が得られると期待される。 更に、蛍光性分子と結合することによってエネルギー移動の経路が変化する光回路についても検討を行う予定である。これまでの得られた知見を利用すれば各ステップのエネルギー移動効率を理論的に予測することが可能であるため、様々な分子に応答する回路を調製することが可能となる。
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