色素などのπ電子系物質は集積化する際の配向や距離によってその物性を大幅に変化させるため、その集合形態の制御が極めて重要である。本研究ではDNA骨格を利用することにより、分子を空間的に精緻に配置した新しいπ造形システムを構築することを目指した。前年度は、DNA骨格を利用して同種の色素間におけるエネルギーマイグレーションについて詳細に解析した。その結果、エネルギー移動効率が厳密にフェルスター理論に従って変化することを実験的に証明することに初めて成功した。これらの成果は本年度Communications Chemistry誌に報告した。 本年度は前年度得られた知見を元に、色素を精密に集積化した光捕集アンテナ複合体の開発を目指した。具体的には多数のドナー色素(ピレン)をDNAに導入し、中央にアクセプター色素(ペリレン)を配置したDNAジャンクション構造を調製した。その結果、ドナー間でまずエネルギーマイグレーションが起き、更にドナーからアクセプターへの異種色素間エネルギー移動が起きることによって、アクセプターの発光増大を期待した。実際に、ジャンクション構造を調製し、蛍光スペクトルを測定したところアクセプターの強い発光が観察されたことから、高効率な光捕集アンテナとして機能することが分かった。また、ジャンクション構造の分岐数を変化させて詳細に解析を行ったところ6分岐のジャンクション構造が高い光捕集能を示し、有効吸光係数が百倍以上向上することが分かった。 現在、これらの成果を元に論文を執筆中である。
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