公募研究
量子スピン液体などのエキゾティックな電子状態が期待されるフラストレートπ電子系の基底状態を核磁気共鳴によって用いて調べた。特に3つの新規物質において、磁気秩序が起こらないスピン液体状態を示唆する結果を得た。まず、三次元的なカイラル有機ラジカル塩であるナフタレンジイミド化合物において、14N-NMR測定を行った結果、0.38Kの極低温まで長距離磁気秩序が存在しないことを明らかにした。比熱と帯磁率の結果と合わせて、ギャップレスの量子スピン液体が三次元系で実現している初めての例を示した。また、カゴメ格子を有するC60錯体における13C-NMR実験の結果、80Kあたりまで、分子回転が持続していること見出した。電子スピンは1.5Kまで無秩序状態であることが分かった。さらに、スパイラルな三次元構造を有するフェナントレン錯体においても、0.4Kまで長距離秩序の兆候が観測されなかった。ただし、基底状態から20K程度のギャップのある励起が観測され、連続的な2量体化が起きていることが分かった。また、π電子系としては初めてとなる三次元ダイアモンド格子を有する物質を見出した。その高圧下の13C-NMR測定によって、反強磁性秩序転移温度が世界最高となる195Kまで上昇することを明らかにした。第一原理計算を共同研究者とともに行い、ダイアモンド格子では三次元的なディラック半金属が実現する可能性があることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
新たに3つ系において、量子スピン液体を見出すなど、順調に成果を上げている。国際共同研究、および領域内の共同研究も積極的に推進しており、さらなる進展が期待される。
様々なフラストレートスピン系において、異方的な構造変形と組み合わせた実験によって、基底状態の変化を詳細に明らかにする予定である。特に、良質単結晶試料が得られているκ-(ET)2X系における一軸性歪下のNMR実験を行い、量子スピン液体から反強磁性秩序相への連続制御を試みる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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http://i-ken.phys.nagoya-u.ac.jp/index_j_shimizu.html