公募研究
本研究では、近年急速に注目されている有機熱電変換材料に関して、前回の新学術領域研究等にて報告している巨大なゼーベック係数の発現機構の解明を指向し、物性計測・化学計算・物性理論等の多角的アプローチを行う。平成29年度は、単結晶試料における熱電測定を行い、複数の試料において10 mV/K程度の巨大ゼーベック効果を見出した。これにより巨大ゼーベック効果が、薄膜特有の結晶粒界や構造欠陥に起因して発現しているわけではないことが判明した。中でも、薄膜試料では巨大ゼーベック効果を示さなかったペリレンビスイミド類縁体について、単結晶試料においてのみ巨大ゼーベック効果を発現した。以前の薄膜試料のX線回折から、薄膜内で分子が基板に対して平行配向している傾向が強く出ており、巨大ゼーベック効果を示した他の薄膜が垂直配向優勢であることとは対照的であったため、分子スタック方向に温度差を印加することが巨大ゼーベック効果発現の条件の一つとして考えられた。今回巨大ゼーベック効果を発現したペリレンビスイミド類縁体の単結晶は分子スタック方向に結晶成長し、その方向に温度差を印加して熱電測定を行ったために上記条件が成立したと考えられる。これにより分子配向の効果について、より確かなものとなった。観測されたゼーベック係数は高温域では低下する傾向が見られた。これは熱励起による試料中のキャリア密度の増加に伴い、導電率の増加とゼーベック係数の減少が同時に起こっているものと予想される。試料中のキャリアの状態について、さらなる調査が必要であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
単結晶試料の熱電測定に関しては概ね順調に進行している。特に単結晶の作製とハンドリング技術に関して、想定以上に進行している。併せて実施を予定していたペレット試料での熱電測定については、測定用の改良型冶具の設計開発の面で、特殊部品の調達の問題からやや遅れているが、既存の冶具を用いた実験を繰り返しており、基礎的な知見が蓄積されつつある。新型冶具が到着次第、効率的に測定を開始する予定である。すでに新学術領域内での共同研究を進めており、いくつかの有望な候補材料に関しての熱電測定が可能であることを確認し、暫定的な結果が得られている。
測定装置の準備が整い次第、ペレット試料での熱電測定を実施する。ペレット試料の測定は昇華性や溶解性等の試料固有の物理的性質によらず、広範な試料について測定可能であり、ゼーベック係数・導電率・熱伝導率を同一方向で測定することで、より正確な熱電評価を行うことができる。これまでの予備実験からペレット試料の成形条件等の基礎的な知見は得られつつあるため、本年度の早い段階で本測定に着手できると判断している。また、単結晶試料での測定に関して、極低温で熱刺激電流測定を行うことで、トラップ状態の評価を行う。これまでの熱電測定において、比較的大きな導電率活性化エネルギーが観測されており、これと巨大ゼーベック効果との関連が疑われる。従来、バンドギャップに相当する活性化エネルギーが得られるはずであるが、試料内部の状態によって異なる振る舞いが得られる可能性がある。熱刺激電流測定では、外部電圧を印加することで蓄積されたキャリアを低温で封じ込め、徐々に温度を制御することで電流を検出し、試料内のトラップの深さを見積もる。単結晶試料のような比較的トラップの少ないと想定される試料と、薄膜試料等とを比較測定することで、内在する荷電状態のエネルギー等についての評価を行う。必要に応じて、分光的手法による解析等も適宜行う。
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Materials Chemistry Frontiers
巻: 2 ページ: -
10.1039/C7QM00596B
Chemistry Letters
巻: 47 ページ: 524-527
10.1246/cl.171210