本研究では、近年急速に注目されている有機熱電変換材料に関して、前回の新学術領域研究等にて報告している巨大なゼーベック係数の発現機構の解明を指向し、物性計測・化学計算・物性理論等の多角的アプローチを行う。 平成30年度は、前年度までに実施してきた単結晶試料における熱電測定手法を用いて、同新学術領域内外における共同研究により提供された単結晶試料の測定を行い、複数の試料において数10 mV/K程度の巨大ゼーベック効果を見出した。また、測定中の試料に光照射を行った実験では、ゼーベック係数の減少が観測された。これにより、キャリア密度の増加によりゼーベック係数が変調を受ける可能性が強く示唆された。この結果は、以前に見出された熱励起によるゼーベック係数の変化とも符合する結果を与えた。さらに、共同研究により、物性理論において新概念を導入することで、これらの実験結果を理論的に説明できる結果がごく最近になって得られつつある。 また同年度は、ペレット状に成形した粉末試料における熱電特性の測定法の開発も行った。この測定法では、昇華性や溶解性の無い試料にも適用できるため、より広範な試料のスクリーニング等において有益であると考える。この測定法を用いて、長さの異なるアルキル基をもつチエノアセン誘導体の測定を行ったところ、構造相転移に伴う導電性と熱電特性の変調が観測され、アルキル基が長いほどこの効果が顕著に得られることがわかった。これらの結果から、特に側鎖に関する設計指針が得られた。
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