研究領域 | π造形科学: 電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出 |
研究課題/領域番号 |
17H05168
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
須田 理行 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 助教 (80585159)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | モット絶縁体 / 有機単分子膜 / 電界効果トランジスタ / 電荷移動錯体 |
研究実績の概要 |
既存の電界効果トランジスタ(FET)に代わる革新的電子技術として、強相関電子系のモット転移(金属-絶縁体転移)を利用する「モットFET」が注目されている。電界効果に伴う静電キャリアドーピングにより物質の伝導度を制御する従来のMOS型FETと異なり、モットFETでは電子系の相転移を利用することで、僅かな入力により巨大かつ高速な出力を導くことが可能とされている。我々はこれまでに、有機モット絶縁体であるκ型BEDT-TTF塩の単結晶をチャネル層としたFETを開発し、世界に先駆けて有機モットFETを実現しているが、これらの単結晶モットFETにおける電界誘起モット転移は、極低温のみの動作に留まっている。これは、室温付近ではモットギャップと熱エネルギーの競合によってバルク伝導の影響が無視できなくなることによるものである。こうした観点から、本研究ではバルク伝導の寄与を排除可能な二次元分子膜FETの可能性に着想し、TTF(tetrathiafulvalene)誘導体の自己組織化分子膜をドナーとした電荷移動錯体の数分子層のみをチャネル層とした、二次元分子膜FETを作製した。スピンコート法によりTTF誘導体分子膜を製膜後、アニール処理をすることにより、1~3分子層の間で層数を制御した二次元分子膜が得られることが明らかになった。得られたFETデバイスは典型的な半導体性のn型電界効果を示したが、F4-TCNQの蒸着により両極性動作へと変化した。これはTTF分子膜からF4-TCNQへの電荷移動に伴い、モット絶縁体が生成したことによるものと推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、分子レベルで膜厚を制御可能な二次元分子膜FETの開発に成功し、F4-TCNQの蒸着により二次元分子膜モット絶縁体の生成を確認することが出来た。平成30年度の計画である二次元モット絶縁体に対する歪み効果印加実験の準備段階はほぼ終了したと考えられ、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は歪み効果と単分子膜における分子間距離(結晶構造)との相関性の定量的な理解を進める。歪みゲージを用いた歪み効果の定量化や放射光を利用した構造解析を行うことにより、歪み効果と分子構造の相関性を定量的に理解し、より汎用的に利用可能なシステムの構築を目指してゆく。 歪み効果の定量的評価と並行して、モット転移近傍での電界効果の印加により電界誘起相転移の観測も同時に目指す。これは、モット絶縁体においては歪み(圧力)を用いたバンド幅制御型の相転移近傍において、同時にキャリアドーピングによるバンドフィリング制御型の相転移も起こりやすくなることが既に明らかになっているためである。歪みとゲート電圧を同時に制御しながら、電気伝導度を評価し、ホール効果測定を組み合わせ、試料の電気伝導型、キャリア数やその振る舞いに関する情報を得る。 また、相転移挙動の追求に加え、新規デバイスとしての展開も視野に入れ、ON/OFF比やキャリア移動度など、基本的なデバイス性能の評価も同時に行う。最終的には、歪み効果および電界効果と電子相との相関性をキャリア密度や格子歪みを変数とした電子相図として可視化することを目標とする。
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