研究領域 | 宇宙の歴史をひもとく地下素粒子原子核研究 |
研究課題/領域番号 |
17H05198
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
淺賀 岳彦 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (70419993)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 宇宙バリオン数 / ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊 |
研究実績の概要 |
標準模型の抱えるニュートリノの極微質量の問題、および宇宙バリオン数非対称性の問題を同時に解決する素粒子理論について研究した。特に、テラスケールの質量を持つ右巻きニュートリノを導入した模型を検討した。この模型では、ニュートリノはシーソー機構を通じ他のフェルミオンより抑制された質量を持つことができる。さらに、右巻きニュートリノの崩壊によるレプトン数生成機構を通じて宇宙のバリオン数の起源を説明することができる。通常考察されているレプトン数生成機構では、宇宙バリオン数の観測量を説明するために10の9乗GeV程度以上の巨大な質量を持つ右巻きニュートリノが導入されていた。このシナリオは大統一理論などと整合性が高いためこれまで広く議論されてきた。しかし、その質量の巨大さのため地上実験でこの粒子を直接検証することはほぼ不可能である。一方、その質量がテラスケール(10の3乗GeV)程度であっても、質量に縮退があるとレプトン数の生成が加速され、十分な宇宙バリオン数を生成することができることが指摘された。 テラスケールの右巻きニュートリノによるレプトン数生成機構の大きな特徴は、荷電レプトンのフレーバーの効果が生じることである。このことにより、バリオン数の生成量はニュートリノの世代混合行列(PMNS行列)に依存することになり、地上実験で検証可能なディラック型やマヨラナ型のCP位相との相関が現れる。 今年度の研究では、ボルツマン方程式に基づく宇宙バリオン数生成量の評価法を確立し、低エネルギーの軽いニュートリノセクターのCP対称性を破るパラメータによる宇宙バリオン数生成量の変化を調べた。さらに、現在T2Kなどの加速器ニュートリノ実験が示唆しているディラック型のCP位相、およびKamLAND-Zenなどで探索されているニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊との関係についても調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度、ボルツマン方程式に基づく宇宙バリオン数の生成量の評価法の確立を最初の課題に設定した。しかし、この数値解析を安定的に行う方法を見出すまでに時間がかかり、研究課題の遂行に遅れが生じた。現在は、この数値計算の問題を克服しており、順調に解析が進んでいる。その結果、低エネルギーニュートリノセクターのCP対称性の破れと宇宙バリオン数生成量との関係についての研究結果が得られている。これらについては現在論文発表に向けて準備を進めているところである。
また、宇宙バリオン数生成量をより正確に評価する方法の開発にも着手した。特に、ボルツマン方程式の枠組みを超えて、右巻きニュートリノ世代間混合や様々な反応に対する量子効果をより正確に取り入れるカダノフ・ベイム方程式に基づいた生成量の評価法についても研究を進めている。これまで考慮してこなかったゲージ相互作用による散乱過程からの右巻きニュートリノ生成について検討した。さらに、右巻きニュートリノの生成過程や崩壊過程の反応率に対する有限温度効果による補正計算も進めている。これら生成量評価の精度を上げて、次年度の研究につなげる。
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今後の研究の推進方策 |
宇宙バリオン数生成量に対するより正確な評価法が整いつつある。この解析方法を用い、テラスケール右巻きニュートリノによる宇宙バリオン数生成機構について総括的な研究をおこなう。 一つの課題として、右巻きニュートリノの崩壊による生成機構と世代間振動による生成機構が混在する領域を重点的に検討する。この領域はまだ詳細な研究がなされていないため、早急に着手し成果を発表する。二つの生成機構の典型的な時間スケールが大きく違うため、数値計算の実施には困難が予想される。しかし、早い時間スケールの過程を平均化するなど妥当な近似法を見出し、期間内に研究成果が出せるようにする。 また、この領域が予言する右巻きニュートリノはその質量が電弱スケール程度であり、FCC実験計画などで探索可能となる。よって、新粒子探索に最適なシグナル過程を見出し、実験での探索感度を定量的に提示する。 最後に、本研究で検討する右巻きニュートリノは特徴的な性質を持つ。共鳴レプトン数生成を実現するためには、2つの右巻きニュートリノは質量が縮退する必要がある。さらに、この粒子を宇宙初期に生成するためには十分な強さの相互作用を持つ必要があるが、共鳴レプトン数生成を機能をさせるためには崩壊幅は抑制されている必要がある。そこで、これらの性質を自然に説明する理論的枠組みについても検討する。フレーバー対称性の導入や、右巻きニュートリノの質量起源を説明する自発的対称性の破れなどについて研究を進める。
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