研究領域 | 宇宙の歴史をひもとく地下素粒子原子核研究 |
研究課題/領域番号 |
17H05204
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
寄田 浩平 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60530590)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 暗黒物質探索 / アルゴン / 気液2相型 / 真空紫外 / 極低温 / SiPM |
研究実績の概要 |
低質量WIMP探索を可能にする「高感度2相型Ar光検出器」の開発・構築を行っている。具体的には、世界最高検出光量と低エネルギー閾値付近で十分なγ線除去力をもつ検出器を設計・製作し、実行性を実証する。2017年度は、主に以下の3つの項目に注力し研究を進めた。①有効質量拡張+多チャンネルPMT読出しの検出器構築、②高電場下のAr応答特性、とくに消光や電離蛍光比(S2/S1)の電場依存性の定式化、③電子反跳事象の理解と神岡地下環境での環境中性子測定。まず、これまでの検出器を拡張し、上下7本ずつのPMT(3inch, R11065)を配備したTPC(有効質量約5kg)を構築した。これまで同様、高純度Ar(電子減衰時定数で約2ms)の安定運用を達成し、水平方向に位置分解能をもつことが背景事象同定に有効なことをデータにより確認することができた。一方、コッククロフトウォルトン回路による電圧印加装置を利用し、先行研究にはない1kV/cmから3kV/cmまでのデータを取得し、S2/S1発光特性を精査し、電離蛍光比による除去力性能が高電場で向上する知見を得た。これらの成果はすべて国際会議や種々研究会、日本物理学会などで公表している。 また、液体シンチレータを用いた神岡地下施設での環境中性子測定を行った。中性子測定コンソーシアムを通じて大阪大学や神戸大学とともに検出器の純化を進めている。これらの成果は学術論文、国際学会、国内学会において公表した。今後は地上での構築をさらに進めるとともに、地下実験に向けての詳細検討をさらに促進させる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本実験に向けた検出器設計・製作、MPPC開発、シミュレーションの確立による背景事象評価など、おおよそ予定通り達成できている。とくに各種線源(γ線源、中性子線源)を用い、検出器外部のNaI検出器で事象をトリガーし、Time-Of-Flight(TOF)法を用いて入射粒子の線種と運動量を算出するセットアップを完成させたことで、Ar応答(S1とS2)をより定量的に観測することができた。これら各種実データを取得したうえで、GEANT4で実装されるトラック毎のエネルギーによってDoke-BirksとTIBモデルを使い分け、Fast/Slowや電離電子の再結合などの発光機構をモデル化することができる。これで、検出器の詳細較正やAr応答の体系的な理解のめの基盤を構築できたといえる。また、様々な放電対策により、3kV/cmまでのドリフト電場を印加することに成功し、良質なデータを取得することができた。先行研究にはない、電場依存性を含めた包括的なモデル化を行うことができた。一方、年度後半には、上下7本ずつのPMTを配備したTPC(有効質量約5kg)を構築し、水平方向に位置分解能をもつ構成ができたことは、本公募研究が採択されたことにより達成できた大きな進展である。Bi-Po遅延同時計数などにより、これまでできなかった水平発光位置を特定できることを示すことができ、とくにS2が小さい事象は壁際で起こっていることが判明した。これにより、背景事象同定に有効なことをデータにより確認することができたとともに、今後の探索感度を有する検出器構築に向け、インフラを含めたハードウェア、ソフトウェア、モニタリング等、盤石な体制を整えることができた。国内外の成果発表を含めて、当初予定通りの進捗を達成することができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、すでに2017年度に取得したデータ(4ns sampling)のフォトンカウンティングを進め、事象選択アルゴリズムなども確立したうえで解析を進める。TOF法による入射運動量の特定やS1・S2の相関や電場依存性も含めたシミュレーションを構築し、精度を高めたうえで、我々の興味のある低エネルギーでの応答(核的・電気的消光等)を精査し、先行研究にはない具体的な物理成果に繋げる。最終的に最も大きな背景事象となるのは、放射線同位体39Arからのβ線(Bq/kg)事象であることはすでにわかっているため、これを完全に除去するべく、S1波形解析(PSD)とS1/S2比応答を低エネルギーで評価し、ドリフト電場や気相取出電場等の設定値の最適化を行う。また、さらなる光量最大化を目指して、波長変換材の真空蒸着システム改善や蒸着量の最適化を今一度行い、10pe/keVee以上の世界最高検出光量を目指す。電場形成やガス循環システムなどのハードウェア技術の課題はすでにクリアーしているため、滞りなく展開できると考えている。また、すでにPMTの量子効率(30%)によって制限されるていることがわかってきたため、1光子検出能力の高い最新のMPPC(PDEが50%以上)の利用を検討し、実際に種々の低温特性(そもそも液体アルゴン温度で稼働可能か否か)等の基礎データを獲得し、将来に向けた実行性を検討する。これらにくわえて、これまで継続的に行ってきた環境中性子測定・定量的理解を進め、必要な遮蔽力をGEANT/PHITS等を用いて見積もり、本実験に向けた研究も強化する。最終年度である2018年度はとくにこれら成果を学術論文に纏めることも主眼に置いて、実地的に進める計画である。
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