本研究では、表面分光(光電子分光および赤外分光)や局所プローブ顕微鏡を用いて、原子レベルで制御されたモデル触媒の電子状態・化学状態や表面反応を研究した。具体的な研究対象は、郷原グループにより作製されたグラフェンに担持された次元とサイズが規定されたPt触媒、本研究室でCu単結晶表面に作製したモデル合金触媒の化学状態と表面反応、水素透過Pd合金表面における水素の吸着・吸蔵過程である。また、山田グループが合成した新規有機分子の薄膜電界効果トランジスタ(FET)特性や、本研究室で作製した有機単分子層FET特性に対する気体曝露効果を、独立駆動4探針電気伝導装置を用いて研究した。 これらの研究成果の学術的・社会的意義は以下の通りである。 (1)希少貴金属であるPtの単原子およびクラスターがグラフェンに担持された時の化学状態と局所構造を電子顕微鏡、XPS、第一原理計算により解明した。さらに、加熱による還元とシンタリング過程をXPSで明らかにした。(2)温室効果ガスの一つである二酸化炭素の水素化によるメタノール合成反応の重要なステップであるフォルメートの水素化を単原子合金触媒Pd/Cuを用いて低温で達成することに成功した。(3)水素透過合金膜として工業的に利用されているPdAg合金およびPdCu合金への水素の吸着・吸蔵と、その過程に伴う表面組成の関係を解明した。(4)雰囲気光電子分光を用いて、Zn修飾Cuモデル触媒におけるCO2の水素化反応を調べ、微量の水がフォルメート生成に重要であることを見出した。(5)有機単分子層FET特性は気体曝露に非常に敏感で、ドメイン境界への分子の物理吸着が電気伝導を妨げていることを明らかにした。
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