研究領域 | 3D活性サイト科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05215
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 聡 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00292772)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 層状物質 / 第一原理計算 / 物性理論 / 活性サイト / ナノ構造物性 |
研究実績の概要 |
本研究では、グラフェンから遷移金属ダイカルコゲナイドに至る様々な層状物質に対して、活性サイトの導入による物性変調の密度汎関数理論に基づく第一原理計算を用いた解明を進めた。平成29年度の主な成果は以下のとおりである。 1)六方晶窒化ホウ素(h-BN)について、アルカリ金属をインターカレートした場合のフォノン誘起メカニズムによる超伝導特性を検討した。h-BNは絶縁体であるために超伝導には有利でないと思われていたが、計算の結果、超伝導転移温度が25Kと予測された。これはグラフェンにインターカレートした場合よりずっと高い温度である。解析の結果、この高い超伝導転移温度は、フェルミレベル近傍に形成される上下の層内のホウ素原子をつなぐような電子状態に由来することが判明した。 2)SiCの熱分解によるエピタキシャルグラフェンは、高品質なグラフェンが得られるものの電子移動度が理論値よりもずっと低い。この低下の主因の一つが基板‐グラフェン界面に存在するフォノンであることを念頭に、界面フォノンの解析に取り組んだ。その結果、共同研究者の実験によるトンネル電子のフォノンとの衝突によるエネルギー損失という非弾性過程の空間依存性の走査トンネル顕微鏡(STM)による計測と、我々の第一原理計算による界面構造と電子・フォノン状態の相関の理論解析との協同により、ダングリングボンドを持つSi原子によって24meVの特徴的な低エネルギー界面フォノンが生じていることを解明した。さらに、ダングリングボンドを持つSiの直上とそれ以外の場所でのSTM微分コンダクタンスに差が現れ、それが前述の界面フォノンと電子の相互作用に由来することを明らかにした。 以上のように、ドーピングや界面による層状物質のフォノン関連物性の変調を明らかにできた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
h-BNへのアルカリ金属インターカレートで高い超伝導転移温度が発現するという理論予測は、予想を裏切るもので、インパクトのある成果である。また、なかなか探る手段のない界面フォノンの振舞いを明らかにした点でSiC/グラフェン界面のフォノンに関する成果も有意義である。いずれにおいても計算結果の背後にある物理も明らかにできており、これらの成果は今後他の系での振舞いを調べる上でも有用と考えられる。 以上のように、ドーピングや界面による活性サイト導入に起因する層状物質の興味深い物性・現象を明らかにできたと言えることから、研究は順調に進展していると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
六方晶窒化ホウ素の超伝導については、様々なドーパント元素による超伝導挙動の違いを調べ、包括的な理解を得ることを目指す。また、欠陥という別種の活性サイトを導入し、これが超伝導挙動に与える影響を解析する。 フォノンおよび電子-フォノン相互作用の解析という点では、アモルファスMoS2の光電子分光測定に関する領域内共同研究を進める。電子-フォノン相互作用に由来すると考えられる特徴的なスペクトル形状の原因を解明し、また実験試料中に含まれると予想されるMo酸化物を含め、電子-フォノン相互作用の挙動を解明する。 対象を広げる観点から、MXeneにおける表面終端等による物性変調についても取組み、特に表面終端によるラシュバ効果の増強の可能性を調べる。
|