研究領域 | 3D活性サイト科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05224
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
中田 彩子 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (20595152)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大規模DFT計算 / 触媒 / ナノ粒子 / 物性物理 / 理論化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、我々が開発している大規模第一原理DFT計算プログラムCONQUESTを用いて、金属ナノ粒子触媒を実在に近い形で表現した大規模モデルに基づくDFT計算を行うことにより、触媒と反応分子との相互作用や接続界面での構造・電子状態を解析することを目指す。具体的には、Auナノ粒子触媒を用いたシラン化合物の酸化反応、Pdコア-Agシェル(Pd@Ag)ナノ粒子触媒によるアルキン部分水素化反応の解析を行った。 当該年度ではまず、前期公募研究で得られた1 nmおよび2 nmのAuナノ粒子の安定構造にSiH4分子を吸着させ、Si-H結合長の変化を検討した。その結果、O2分子の有無にかかわらず、頂点にSiH4分子が吸着した場合にはSi-H結合長が伸びやすいことが確認された。また、担持されたAuナノ粒子の検討のため、担体の構造、電子状態の計算を行った。担体としては、アルコール酸化反応を大きく活性化することが報告されているヒドロキシアパタイト(HAP)、あまり活性化しないMgOの2種類を検討している。予備計算の結果では、MgOでは表面が生じてもバンドギャップの大きさはバルクとあまり変わらないが、HAPでは表面が生じることでギャップが非常に小さくなることが示された。 Pd@Agコアシェルナノ粒子を用いたアルキン部分水素化反応についても検討を行った。当該年度では、Pdナノ粒子、Agナノ粒子、Pd@Agナノ粒子の安定構造を求め、構造や電子状態の比較を行った。その結果、Agナノ粒子の表面はAuナノ粒子のときと同様に負に帯電しているが、Pdナノ粒子では異なる分布となっていることが確認された。また、界面の影響が表れるのは、Pdコア、Agシェルとも界面の1層程度であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、Auナノ粒子と担体との相互作用を解析する予定であったが、本年度では担体の構造を用意するにとどまり、担体上にAuナノ粒子を乗せた計算はH30年度に持ち越された。一方、Pd@Agナノ粒子に関しては、当初の予定にあったPdナノ粒子、Agナノ粒子、Pd@Agコアシェルナノ粒子の安定構造計算を行ったのに加え、当初H30年度に予定していた各粒子の構造や電子状態の比較を行い、特にコアシェルナノ粒子に関しては層の厚さ(PdとAgの比率)を変化させた計算も行い、界面の影響を考察した。よって、総じて予定通りに進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、当該年度に扱った酸化物担体上にAuナノ粒子を乗せたモデルにおける構造最適化計算を行う。得られた構造において、局在軌道を用いて各原子のエネルギーや電子分布、軌道エネルギーの解析を行い、ナノ触媒を構成する多数の原子から特異な電子状態を持つ原子を探索し、反応の活性箇所の候補を見つけることを目指す。当該領域で行われる3D構造測定などの実験との協力のもと、接合界面近傍の構造決定に取り組む。 また、前期公募研究において、O2環境分子がAuナノ粒子表面の構造・電子状態を局所的に変化させ活性サイトを作ることが示されており、次年度ではO2の影響を担体効果と合わせて検討する。 また、Pd@Agコアシェルナノ粒子に関しては、アルキン、アルケンのナノ粒子への吸着の安定性に関する検討を行う。また、コアシェルナノ粒子におけるAgシェル表面、Pd/Ag界面でのH2→2H開裂反応に関して、開裂反応のエネルギーやH原子の表面・界面への吸着エネルギーを計算する。これらにより、部分水素化の反応メカニズムを検討する。 これらの計算は数千原子を含む計算になりえる。CONQUESTで従来用いている大規模計算手法(オーダーN法)は金属系では不安定な可能性があるが、その場合は申請者らが近年開発したマルチサイト法[J. Chem. Theory Comput. 10, 4813 (2014)]を用いる。この方法は高精度・低コストであり且つ金属系にも適用可能である。 また、反応エネルギー計算には前期公募研究で理論班の森川らと共同でCONQUESTに導入したBlue moon法を用いる予定である。この手法がうまくいかない場合は、反応経路を探索するためにmeta dynamics法の導入を検討する。
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