ダイヤモンドは、不純物を添加することによってバンドギャップ5.5 eVの間接型半導体として機能することから、次世代パワーデバイス材料の一翼として期待される材料である。本研究では、p型特性を示すボロンドープダイヤモンドのドーパントの活性サイトに着目し、アクセプタを供給するボロン(活性化ボロン)の化学結合状態を明らかにするために、ボロンドープダイヤモンド中のボロン周辺の原子配列の解析を試みた。 光電子強度の放出角度依存性は、光電子放出元素とその周りの原子配列によって決定される。CVDダイヤモンドのB1sスペクトルの放出角度依存性を解析した結果、ボロンには2種類の化学状態があり、そのうち低結合エネルギー成分には放出角度依存性があるが高結合エネルギー成分には放出角度依存性がなく、それぞれ置換サイトに配置されて活性状態にあるボロンと活性状態にはないボロンの存在を示唆するものであることは、すでに前年までに示してきたとおりであるが、今年度は、CVDダイヤモンド<101>のデータとHPHTダイヤモンド<101>のデータを比較して、異なる条件下で合成されたダイヤモンド単結晶内のボロンの活性/不活性状態について解析した。非平衡状態で合成されるCVDダイヤモンドと異なり、HPHTダイヤモンドは天然のダイヤモンドと同様の環境下で成長し、CVDダイヤモンドよりも転位の少ない結晶が得られることが知られている。 B1sスペクトルを比較した結果、CVDダイヤモンドで見られた不活性ボロンの割合は少ないと見積もられたが、CVDダイヤモンドでは見られなかったピークが低結合側に見られた。このことは、HPHTダイヤモンド中のドーパントサイトがCVDダイヤモンドと異なることを示唆するものである。
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