細胞のような微小区画構造は、生命の誕生と進化に必須な条件だと考えられている。実際に応募者らは、原始生命の実験モデルであるRNA複製反応系を用いて、進化が起こるためには微小細胞構造が必要であることを示した。さらにその細胞構造は、ある程度安定であり、かつ材料供給のために定期的に破壊と再生を繰り返す必要があることを示した。しかし、原始地球でどうやってそのような性質をもつ細胞構造が達成されるのかは未だ不明である。そこで本研究では、冥王代に存在した間欠泉とそこから噴霧される微小水滴がRNA進化を可能にした原始の細胞構造ではないかという新しい仮説を検証するために、間欠泉で生成される空気中微小水滴中でRNA複製反応を行った。その結果、RNA複製反応中にタンパク質を高濃度で入れることにより空気中水滴中でRNA複製が起き、さらに短いRNAの複製を抑制できることを見出した。この結果は確かにRNA複製反応液が微小な区画に分割されていることを示す知見である。 さらに私たちは空気中水滴中でのRNA複製反応を長期継代することにより、RNAが進化するかも検証した。十数回の継代を行った結果、徐々にRNA複製活性が上昇し、いくつかの変異が入ったRNAが集団を占めるようになった。この結果は空気中水滴内でもRNAの複製が続けば進化することを示している。 以上の知見は、空気中水滴がRNAの複製と進化の場として機能することを示す初めての実験的な証拠であり、冥王代に存在した間欠泉とそこから噴霧される微小水滴がRNA進化を可能にした原始の細胞構造ではないかという新しい仮説を支持するものである。
|