現存する生物の使用する遺伝暗号はほぼ共通である。現在のアミノアシルtRNA合成酵素(ARS)は異なる起源を持つ2つのグループClass I ARSとClass II ARSに大別 され、それぞれ3つないしは4つのsubclassに配列や構造から分類される。これらのARSが祖先からから現在のように多様化する過程は、遺伝暗号の進化と翻訳におけるアミノ酸レパートリーの変遷に重要な役割を果たしてきたと考えられる。ARSの複合分子系統解析と祖先配列復元に基づき、どのように現在の遺伝暗号表が確立したのかを明らかにすることを目的とする。本年度の当初の計画は以下の通りである。昨年度行ったClass Ia、Ib、Ic、2a並びに2bの各subclassに属するARSの複合アライメント/分子系統解析のうち、Class IaとIIbについて、より詳細な解析を行う。本年度の成果:Class Ia ARSでは、その系統樹上で最後に分岐したと推定されるIleRSとValRSに注目し、全生物の最後の共通祖先(Commonote)段階のIleRSとValRSの祖先配列、並びにIleRSとValRSの共通祖先配列を推定し、その配列を持つ祖先ARSを大腸菌内で発現、精製を行った。これらのうち、Commonote段階の祖先IleRSと祖先ValRSのいずれも、アミノアシル化活性を持っていることが示唆された。更なる基質特異性等は検討中である。また、Class IIa ARSについては、配列のアライメントを再検討し、SerRSの共通祖先でドメインシャフリングが生じてtRNA結合ドメインが出現したことを示唆する結果を得た。
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