研究実績の概要 |
これまでに純粋分離されている約15,000種の原核生物(バクテリアおよびアーキア)は、地球上に存在する無機化合物、有機化合物、ガス状物質、光エネルギー等を原資として、棲息環境に適応した多様な代謝機能を運用することで生命活動を維持している。生命が有する代謝経路の実体は、脱水素酵素や酸化還元酵素などの様々な酵素が触媒する化学反応の連続であるが、その要所要所で熱力学的にエネルギーを必要とする反応の進行を支えているのが「エネルギー保存システム」である。本研究課題では、我々が培ってきたオミクス技術を駆使することで、現存するエネルギー保存システムがどのような進化を辿ってきたのか? 冥王代に誕生した原始生命が確立した最初のエネルギー保存システムはどのようなものだったのか? 始原的なエネルギー保存システムが関与する代謝機能とはいったい何だったのか? といった疑問を解明することを目的としている。昨年度は、エネルギー保存システムのうち、活性中心の金属分子にニッケルと鉄を有する[NiFe]ヒドロゲナーゼの一群の活性中心サブユニットやNADH結合サブユニット、それらに付随するプロトン輸送サブユニットを解析の対象とした。その結果、[NiFe]ヒドロゲナーゼの活性中心サブユニットの系統は、大きく分けて(1)プロトン還元-フェレドキシン依存型、(2) NADH/キノン依存型、(3)双方向/水素酸化型、(4)エネルギー保存型ヒドロゲナーゼ類縁複合体の4つのグループに別れることが示された。今年度は、ギ酸デヒドロゲナーゼ、硝酸レダクターゼ、ホルミルメタノフランデヒドロゲナーゼ等の酸化還元酵素の活性部位を標的とした系統解析を実施し、原始的代謝経路の一つであると考えられているメタン生成経路と、それらに必須のエネルギー保存システムの進化を考察した。
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