研究領域 | 冥王代生命学の創成 |
研究課題/領域番号 |
17H05240
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
五十嵐 健輔 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (90759945)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生命の起源 / 硫化鉱物 / 冥王代 / ペプチド / 原始酵素 / 還元的アセチルCoA経路 |
研究実績の概要 |
冥王代の地球環境では、様々な硫化金属が有機物を合成する化学反応を触媒することで、初期生命誕生の礎を提供したと考えられている。そしてそのような硫化金属と、現生の生物で見られる洗練された酵素とを繋ぐ中間的存在として、硫化金属-ペプチド複合体が想定されている。本研究の目的は、そのような複合体を実際に構築し、硫化金属の触媒能がペプチドとの結合でどのように変化するか、およびそれらの人工進化過程を解析することで、硫化金属-ペプチド複合体が初期生命の代謝構築に果たした役割を解明することである。29年度の実施内容は下記に示すとおり二つの研究段階に分けて行われた。 第一段階として、まず冥王代の地球環境に豊富に存在したと考えられる各種硫化金属を対象に、還元的アセチルCoA経路を模擬する反応、即ちCO2やCOを各種還元剤(H2やH2S)によって還元する反応の触媒能を調査した。その結果、グライガイト類(Fe3S4とNiFe2S4)は最も高い触媒能を示すことを明らかにできた。また、反応に対するpHと圧力依存性を解析した結果、pHは反応に著しい影響を与えなかったことに対して、圧力はCO2のメタン化を促進し有機酸への変換を抑制することが判明した。以上から、冥王代の様々な局所環境における、硫化金属の触媒作用についての網羅的な知見を得ることができた。 第二段階として、硫化金属-ペプチド複合体を構築するために、各種硫化金属に特異的に付着するペプチドをファージランダムペプチドライブラリーからスクリーニングした。嫌気条件の下、硫化鉄(主にアモルファスFeSやグライガイト)を対象としたスクリーニングを行った結果、極性アミノ酸が疎水性アミノ酸に隣接したモチーフに富むペプチドが複数得られ、これらは硫化鉄への高い親和性をもつことが明らかになった。以上から硫化金属-ペプチド複合体を形成するための基盤を構築できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度の計画では、各種硫化金属のみを触媒とした反応の特性の解明を目的としていた。冥王代で想定される様々な反応の条件を概ね網羅し、特に触媒活性の高い硫化金属の特定に成功したため、当初の予定どおり研究を遂行できたと考えられる。また、次年度の予定を前倒し、硫化金属に親和性のあるペプチドの探索を開始した。既に数種類の硫化金属に対してそれぞれ親和性のあるペプチドの選定が完了できた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は硫化金属に親和性のあるペプチドの探索作業を更に進め、人工合成したペプチドを用いて、多様な硫化金属-ペプチド複合体を構築する。この複合体を用い種々の反応を行い、触媒能の変化について調査する。また、ペプチドのアミノ酸配列置換により人工的に進化を模擬し、洗練された酵素へと進化していく過程についての知見を得る。更に、化学進化過程に電離放射線が関わった可能性を考慮し、反応に必要なエネルギーを電離放射線(主に紫外線)で供給する系においても同様の反応を行う。
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