化学進化のシナリオにおいて、触媒活性のある硫化金属は単純なペプチドとの複合体を形成することで、原始的な酵素へと進化したと考えられている。本研究の目的は、そのような複合体の構築を行い、硫化金属の触媒能がペプチドとの結合でどのように変化するか、およびそれらの人工進化過程を解析することで、硫化金属-ペプチド複合体が初期生命の代謝構築に果たした役割を解明することである。30年度の研究内容は下記のとおり二つの段階に分けて行われた。 1. グライガイトをはじめとする各種硫化金属に親和性のあるペプチドをライブラリーからスクリーニングし、それらの中から代表的な複数のペプチドを人工合成した。各硫化金属と、それらに対応するペプチドを混合しペプチドの付着能を評価した。分光解析により、これらペプチドが対応する硫化金属へ選択的に付着することを示す結果が得られ、本手法の有効性が示された。グライガイトとペプチドとの混合物を用いて、昨年度と同様な水熱反応を行い、触媒能への影響について調査した。その結果、CO2のH2による還元反応では、明瞭な反応の違いが見られなかったものの、COのHS-による還元では、親和性のあるペプチドの存在下で反応速度が増加することが明らかになった。これらの結果から、硫化金属に駆動された化学進化はペプチドによって促進された可能性が示された。 2. また、反応に必要なエネルギーを紫外線などの電離放射線から供給する反応環境を想定し、硫化金属の触媒能を紫外線照射下で評価した。その結果、硫化亜鉛に触媒されたCOのHS-による還元反応は紫外線の照射条件で僅かに促進されることが分かった。以上から、紫外線存在下での化学進化過程に対する新たな知見が得られた。
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