研究領域 | 冥王代生命学の創成 |
研究課題/領域番号 |
17H05241
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
須田 好 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 産総研特別研究員 (00792756)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 蛇紋岩 / 初期地球 / 炭素循環 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、蛇紋岩を母岩とする温泉環境を冥王代類似環境と想定し、観測に基づいて蛇紋岩-水系における炭素の循環を明らかにすることである。本年度は、蛇紋岩温泉である白馬八方温泉(長野県)を研究対象として、以下の3項目に取り組んだ。 1)炭素同位体比測定に向けた溶存有機酸の濃縮:白馬八方温泉試料中に含まれるギ酸・酢酸の炭素同位体比を正確に決定するためには、測定に十分な濃度まで濃縮する必要がある。そこで、真空凍結乾燥による濃縮法の試験分析とブランクテストを実施した。白馬八方温泉試料と同程度の濃度に調整したギ酸および酢酸水溶液を真空凍結乾燥法により濃縮させた。濃縮時間を変えた試料を比較したところ、ギ酸および酢酸の炭素同位体比の差は分析誤差範囲内であることが分かった。しかし一方で、ブランクテストの結果、試料のpHを強アルカリ性に調整する際に比較的高い濃度の有機酸が混入することが分かった。 2)揚湯パイプ沈殿物の分析:源泉井戸の揚湯パイプに付着した沈殿物の分析を行った。X線回折法(XRD)分析の結果、沈殿物の主成分は炭酸カルシウムであることが分かり、それ以外の鉱物は検出されなかった。 3)白馬八方温泉サンプリング調査:2017年8月に実施した調査では、2本の源泉井戸それぞれについて、溶存無機炭素の炭素同位体比および希ガスの同位体比測定用の試料を採取した。温泉水中の溶存無機炭素に関しては、低濃度のために正確な炭素同位体比を測定することはできなかった。深部由来のガスの寄与を評価する目的で遊離ガス中の希ガスの分析を行った結果、ヘリウム同位体比(3He/4He比)が高いことが明らかになった。このことからマントル起源ヘリウムの割合が大きいことが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は白馬八方温泉中の溶存有機酸の炭素同位体測定に向けて、分析前処理方法を本年度中に確定する計画であった。しかしながら水溶液試料の濃縮操作におけるブランクテストを行ったところ、操作中に比較的高い濃度の有機酸が混入することが判明した。実試料へ適用するには、ブランクを低減させるために濃縮操作の再検討が必要である。 また、揚湯パイプに付着した沈殿物について、白馬八方温泉における炭素循環の時間的な制約を与える目的で炭酸塩鉱物の放射性炭素年代測定を行う計画であった。XRD分析の結果、沈殿物がほぼ純粋な炭酸カルシウムであることが分かったので、放射性炭素年代測定に必要な前処理(リン酸処理、CO2ガスの精製・回収、CO2ガスのグラファイト化)を行った。しかしながら、うまくグラファイト化させることができなかった。沈殿物にリン酸を添加した時に発生するガスに硫化水素臭があったことから、沈殿物にわずかに含まれる硫黄化合物がグラファイト化を阻害したと考えられる。 以上のことより、現在までの進捗状況を「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度試した前処理方法では有機酸のブランクが高すぎるため、ブランクを低減させる対策が必要である。水溶液試料のpHを強アルカリ性に調整する作業中のコンタミネーションが大きいので、操作の見直しを図る。本年度に引き続き、市販の試薬で作成した模擬試料を用いて溶存有機酸の濃縮法を確立した上で、液体クロマトグラフィー同位体質量分析(LC/IRMS)にてギ酸および酢酸の炭素同位体比を計測する。 また揚湯パイプに付着した炭酸塩鉱物については、前処理に硫黄を除去する工程を加えることでグラファイト化に関する問題を解消し、放射性炭素年代測定を行う。さらに白馬八方温泉の主成分ガスであるメタン(CH4)についても、放射性炭素年代を測定する計画である。CH4ガスをCO2ガスに変換する作業までを海洋研究開発機構で行い、CO2ガスのグラファイト化および加速器質量分析計(AMS)による放射性炭素(14C)含有量の測定を東京大学大気海洋研究所にて行う予定である。 来年度はこれまでに得られた成果を総合し、白馬八方温泉の観測から蛇紋岩-水系における炭素循環の全体像を推定する。
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