本研究では肺切除術後の生体力学シミュレーションを行い、残存肺における生体力学的状態を計算機上で再現し、医用画像における残存肺の形態情報と生体力学機能情報との関連性を明らかにすることにより、残存肺拡張の予測手法を開発する。前年度の研究に続いて、本年度ではまず肋間筋の収縮が胸郭運動に及ぼす影響を調べた。各部位の肋間筋が肋骨に作用する回転モーメントが異なり、そのモーメントの分布が胸郭の変形ひいては呼吸能力に影響を与えることを明らかにした。さらに、気流解析においては、主気管支を3D、細気管支を1D、肺実質を0Dとして、3D-1D及び1D-0D間で流量保存則および圧力の連続条件が満たされるように接続した各階層の気流流れの連成解析手法を開発し、呼吸系全体における気流流れ解析を可能にした。一方、これまでの呼吸シミュレーションモデル構築に使用されていた医用画像は吸気末期のものであるため、主要呼吸筋の収縮を再現できない;肺は左肺と右肺のみで、各肺葉を区別しないなどの欠点があるため、呼吸系モデルの作成方法を改良し、より生理学的及び解剖学的状態に近い呼吸系シミュレーションモデルを構築した。各肺葉を区別することにより、肺葉間の接触状態が複雑となり、安定的収束計算が難しくなるため、より効果的接触解析アルゴリズムを適用した。以上の成果を基に、各肺葉の切除術シミュレーションを行い、残存肺の変形、肺内空気流れの変化、肺胞圧の変化、残存肺の歪み及び応力分布などを調べた。
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