研究領域 | 医用画像に基づく計算解剖学の多元化と高度知能化診断・治療への展開 |
研究課題/領域番号 |
17H05307
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
梅沢 栄三 藤田保健衛生大学, 保健学研究科, 准教授 (50318359)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | MRI / 拡散 / 尖度 / キュムラント展開 / ベイズ推定 |
研究実績の概要 |
生体内の水分子は熱運動により拡散している。この拡散運動の統計的性質を表す量である拡散係数や拡散尖度は MRI によって測定することが可能である。拡散係数や拡散尖度は、生体組織の微視的構造や状態に依存して変化するため、これらを用いて医用画像を作り、診断等へ利用することができる。特に、拡散尖度は最近になって測定が可能になった量であり、拡散係数よりも脳腫瘍などの病変に対する感度が高いことが報告されている。拡散尖度画像法(DKI)はこれらの量を求める方法の一つであり、比較的少ないデータ収集で実行することができることから近年注目されている。 従来の DKI では、拡散 MRI の信号やそれの対数をとったもののある関数を、b 値と呼ばれる MRI 装置のパラメータの冪級数で表し、その級数の 2 次より高次項を打ち切ったものを測定信号にフィットすることで拡散尖度などを推定している。この打ち切りは拡散尖度に系統誤差を生じさせる。 H 29 年度の研究では、この打ち切り次数をより大きくして系統誤差を減らし、より正しい拡散尖度を求める方法の基本的アイデアを確立した。通常、打ち切り次数を増やすと、モデルパラメータの増加による過剰適合が直ちに起こり、推定のロバスト性が損なわれる。このために、これまで高次項を取り扱うことは困難であった。これを克服するために、我々はある種のベイズ推定を利用した。これにより、より正しい値の拡散尖度を安定して得ることができることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MRI 信号の対数のある関数を b の冪級数で表し、それをできるだけ高次で打ち切って測定値にフィットする、その際にベイズ推定を行う、という方法を提案した。これにより、尖度推定を高確度、かつロバストに行えると考えた。これを実証するために、健常人脳データによる試行と数値実験とを行った。 1) 脳データによる試行 Hansen らが公開している脳データを提案法で解析した。まず、ベイズ推定を使わずに解析した。この場合、打ち切り次数 2 のとき(従来法)に比べ、次数 3 以上のときは尖度マップが非常にノイジーになった。次にベイズ推定を使って解析した。我々のベイズ推定は、はじめに通常の最尤推定を行い、その結果から推定パラメータの事前分布を作りベイズ推定を行う。今回は、さらに、再度その結果から事前分布を作りベイズ推定を行うということを繰り返すという方法を試みた。これにより、尖度マップが劇的に改善した。当初、繰り返し数回数の決定法が問題になると考えていたが、繰り返しで推定値が収束することが強く示唆された。また、このベイズ推定法によってマップの中央値は大きくは変化しないことが分かった。以上より、ベイズ推定の適用でロバスト性を保てることが分かった。 一方、打ち切り次数増加に伴って、尖度マップの中央値が大きくなることも分かった:従来法の推定値が 1 程度であるのに対して高次項まで取り入れた場合には 3 程度になった。これは正しい結果なのか?これを確認するために次の数値実験を行った。 2) 数値実験 制限拡散と自由拡散が混在している場合の MRI 信号値の模型を使い、脳データの推定が再現できるか否かを確認した。結果、現実的な模型パラメータ値の場合において、ほぼ再現できることが分かった。これは、従来法の尖度推定値が正しくなく、高次項を取り入れることにで、より正確な結果が推定できていることを示唆する。
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今後の研究の推進方策 |
1) 理論研究: MRI 信号の対数はキュムラント母関数である。提案法では、これから構成されるある関数を級数展開し、それをある次数で打ち切って利用している。打ち切りの次数を上げることにより、尖度推定の確度が向上することが H 29 年度の数値実験により示されているが、利用している級数が漸近級数であるか否かは不明であり、より良い高次項の選択の仕方があるかもしれない(必ずしも低次項から順番に取り入れていくのが最良ではないかもしれない)。このことのを理論的に調べ、確度をより向上することを目指す。 2) 臨床応用の検討: 尖度推定の確度が向上することが、尖度を利用した病変の診断にどのような影響を与えるかについて、臨床応用を念頭において調べる。これまでに拡散尖度が神経膠腫の悪性度の鑑別に有用であることが報告されているが、より正確に尖度が求められるようになった場合に、この悪性度鑑別能がどのように変化するのかを調べる。このために、悪性度の異なる神経膠腫に対する MRI 信号の数値ファントムを作成し、これに提案法を適用するという数値実験を行う。数値ファントムの作成には、拡散 MRI で得られる様々な特徴量の神経膠腫に対する既報の値を再現するように模型パラメータを調整することにより行う。 3) コンピュータ・ソフトウェア開発: 提案法を実行する解析ソフトウェアを作成する。このソフトウェアは、拡散 MRI 解析ソフトウェア「dTV. II. Lite」のアドイン機能とする、もしくは MATLAB により配布可能なコードとして作成するという形にて実現する。
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