研究実績の概要 |
ピナツボ火山から採取したマントル捕獲岩中の流体包有物は主に塩水と炭酸塩鉱物からなり、硫酸塩鉱物と硫酸塩イオンが少量含まれている。本研究課題では、LA-ICP-MSを用いて流体包有物の分析を行い、ナトリウムとカリウムの重量比を得た。それは海水のそれよりもカリウムが多い。また、この流体包有物のNa/K比を、これまで島弧と背弧海盆玄武岩の研究により沈み込む海洋プレートからマントルに付け加わったと推定されてきた水流体コンポーネントの組成と比較した。それによると、流体包有物のNa/K比は、Stolper and Newman(1995, EPSL)が推定したマリアナ海盆のNa/K や、Grove et al. (2002, CMP)が推定した カスケード(シャスタ山)のNa/K よりもややカリウムに富んでいる。また、Le Voyer et al. (2010, J Petrol)がシャスタ山で推定した 2種類のスラブ由来流体 (水流体とメルトまたは超臨界流体)の間の値を持つ。なお、彼女らの推定値はShinohara et al. (1989, GCA)が高圧実験で求めたかこう岩マグマと水流体の間のNa/Kの交換分配係数と調和的な値である。 本研究の流体包有物も既往研究のこれらの流体も、それぞれ海水に由来すると考える(Kobayashi et al., 2017, EPSL)が、その組成は水と岩石の間の反応の程度により変化するだろう。水流体とマントル鉱物の間でカリウムとナトリウムの交換反応が起こるはずで、マントルのケイ酸塩からはカリウムが水流体に入り、同時にナトリウムはマントルに出て行くだろう。塩素はマントルを構成するケイ酸塩鉱物にはほとんど入らないので水流体に入り、塩濃度は上昇するだろう。これらの水ー岩石の相互作用をどのように理解すべきか、簡単ではないが考えて行くことが重要だ。
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