研究領域 | 地殻ダイナミクス ー東北沖地震後の内陸変動の統一的理解ー |
研究課題/領域番号 |
17H05319
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
西山 直毅 筑波大学, 生命環境系, 研究員 (30746334)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 圧力溶解変形 / 粒界 / 拡散 / 摩擦ヒーリング効果 |
研究実績の概要 |
圧力溶解は,地殻の岩石や断層ガウジを圧密する主要なメカニズムである。また,断層ガウジ粒子の接触面積を増やす効果があることから,間震期における断層強度の回復(ヒーリング)との関連が指摘されてきた。圧力溶解の速度を定量的に予測するためには,粒界水の性質を理解し,粒界水中の拡散係数を定量的に明らかにする必要がある。しかしながら,粒界水中の元素の拡散係数の値は十分に制約が進んでおらず,圧力溶解の変形速度を予測するモデルを適用する上で,たびたびボトルネックとなってきた。そこで本年度は,地殻に豊富に存在する石英を対象として,分子動力学(MD)計算を用いて粒界水中の溶存元素の拡散係数を評価した。 MD計算では,α-石英の末端酸素に水素を付けて水酸基とした表面を作成し,向き合わせた2枚の表面の間に水分子および溶存Si分子を配置することで,石英粒子の粒界水を模した系を作成した。計算条件は,粒界の開口幅を0.5-2 nm,温度150-350℃とした。計算にはMXDORTOプログラムを用いた。 粒界の開口幅が減少すると溶存Si分子の拡散係数は減少し,自由水中(石英表面のない水分子のみの系)と比べて最大で一桁程度小さくなることが分かった。一方,粒界水中の拡散係数の活性化エネルギーは16.3-19.0 kJ/molと求まり,自由水中の値(14.4 kJ/mol)と大きな違いは見られなかった。さらに,得られた拡散係数と既存の圧力溶解モデルを組み合わせ,石英ガウジの摩擦ヒーリング速度の計算を行った。得られた摩擦ヒーリング速度は,先行研究によって行われた,滑りと静止を繰り返し行い摩擦ヒーリング速度を調べる「slide-hold-slide試験」で得られたヒーリング速度と概ね一致した。以上から,本研究で得た粒界水中の拡散係数は,断層ガウジのヒーリング効果を理解する上で有用であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,石英を対象とした分子動力学計算を行い,圧力溶解変形が特に重要となる温度150-350℃の範囲における粒界水中の拡散係数を網羅的に得ることができた。その結果,粒界水の厚さが減少すると,溶存元素の拡散係数は減少し,自由水中の拡散係数と比べて最大で一桁程度小さくなることが分かった。本研究で計算した拡散係数と既存の圧力溶解モデルを組み合わせ,圧力溶解による石英粒子の圧密速度を算出した。計算した圧密速度は3軸圧縮試験で測定された圧密速度を再現できており,得られた拡散係数の有効性が示された。さらに,得られた拡散係数を用いて,石英ガウジの摩擦ヒーリング速度を予測し,先行研究による摩擦試験(slide-hold-slide試験)で得られたヒーリング速度と概ね一致することが確認できた。以上から,本年度の研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度までの研究で,鉱物の粒界に存在する水や,粒界水中の元素の拡散挙動がどのような性質を持つのかが分かってきた。しかし,これまでは粒界がどの程度の開口幅を持つのかが分からないため,様々な開口幅(0.5 nmから2 nm)についての拡散係数を計算せざるを得なかった。そこで今年度は,粒界の開口幅が温度や応力によってどのように変化するかを分子動力学計算から評価する。そして,前年度に見積もった石英粒界中の元素の拡散係数を統合して,地殻深度-粒界水の厚さ-粒界水中の拡散係数の関係を定量的に明らかにすることを目指す。
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