研究領域 | 地殻ダイナミクス ー東北沖地震後の内陸変動の統一的理解ー |
研究課題/領域番号 |
17H05321
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮川 歩夢 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (50611191)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 沈み込み帯 / 摩擦係数推定 / 震源メカニズム解 / 海溝型巨大地震 / プレート / 海底斜面形状 |
研究実績の概要 |
【震源メカニズム解を用いた地質体の摩擦係数推定方法の開発(節面選択法の検討)】震源メカニズムを用いた応力逆解析およびそれに基づく摩擦係数の決定を行う上で、2つの節面のどちらを解析に用いるのかが課題になる。そこで、摩擦係数推定に用いる節面の選択法を検討した。検討の結果、(1)Wallace-Bot仮説に基づく、応力に対する理論滑り方向と実際に滑った方向の差が十分大きい節面は採用しない(2)摩擦係数から予想される滑りやすさ(DC値)が小さい方の節面を選択する。これにより、応力・摩擦係数いずれも満足する節面の選択が可能になった。
【世界の沈み込み帯における検討】上記の手法開発の結果を受けて、世界の沈み込み帯の摩擦係数の多様性を検証する解析を実施した。結果、多くの沈み込み帯においてデータ数が不十分で、解析精度を得ることができなかった。これは、各沈み込み帯が必ずしも地震が多く発生する場所ではないこと、地震観測網の粗密差、データベースがカバーする地震が中規模以上のものであるなどの理由から、地域によっては十分なデータ数を確保できなかったことが原因と考えられる。これらのことから、摩擦係数の推定手法を適用するためには、より高密度でカバーされたデータベースの利用が必要であることが明らかになった。
【日本の沈み込み帯における検討】先の検討結果を受けて、高いデータ密度を持つ日本のの沈み込み帯毎に摩擦係数推定法を適用した。その結果、ほとんどの沈み込み帯において摩擦係数を推定することができた。摩擦係数とプレートや海底斜面形状等の幾何学的な情報および、想定される地質などとの関係について検討したが、現在までに有意な相関を得られていない。これらの原因として、ある地域の沈み込み帯においても、摩擦係数の空間不均質の存在や、使用するデータの詳細なスクリーニングの必要性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,初年度に達成を予定していた震源メカニズム解に基づく摩擦係数推定法の構築を行えた.そのため,翌年度に実施予定であった,開発した手法を用いた世界中の沈み込み帯で予察的な検討を行った.しかし,結果として使用する地震データベースに,ある程度の地震数が必要で,適切なデータベースの使用が必要であることがわかった.そこで,初年度中に地震データ数の十分ある日本周囲の沈み込み帯での検討を始め,有意な摩擦係数の推定を実施することができた.
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今後の研究の推進方策 |
・地域スケールの沈み込み帯における摩擦係数空間不均質の検討 東北地方の日本海溝沈み込み帯において、摩擦係数の空間不均質について検討する。東北地方の日本海溝沈み込み帯は、先の2011年東北地方太平洋沖地震時に大きく断層がずれた領域とそれ以外の領域に分けられる。沈み込み帯を構成する地質帯の物性(摩擦係数)が、海溝型地震に寄与するのであれば、先の地震時のずれの差に対応した摩擦係数の差が予想される。そこで、平成30年度は東北地方の日本海溝沈み込み帯を、2011年東北地方太平洋沖地震時に大きく断層がずれた領域とそれ以外の領域に分け、それぞれの地域で発生した地震の震源メカニズム解を対象に本研究で開発した摩擦係数推定法を適用する。東北地方の日本海溝沈み込み帯を対象とする理由として、2011年太平洋沖地震時の滑りが既知であることまた、東北地方は地震活動が活発で多くのデータを収集できることが挙げられる。
・使用するデータの詳細なスクリーニング法の検討 使用するデータをスクリーングする上で、まずは適切な領域区分に基づくスクリーングが必要になる。上記のように東北地方地方を海溝型地震時のズレの大きさで領域分けした場合、領域区分は水平方向のみであり、依然として鉛直方向の領域分けすなわち領域としてのスクリーングは十分検討できていない。そこで、平成30年度は鉛直方向の領域分けに基づくデータのスクリーングについて検討する。具体的には、沈み込み帯における大陸プレートと海洋プレートの違いを加味した、領域区分およびスクリーングを検討する。沈み込み帯では大陸プレートの下に海洋プレートが沈み込んでいるが、多くの場合2つのプレートは異なる地質体で構成されている。東北地方沈み込み帯の場合は大陸プレートは堆積岩起源の付加体で、海洋プレートは海洋性玄武岩などの火成岩で形成されていると考えられる。
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