研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
17H05324
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
出浦 桃子 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90609299)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自己形成特異構造 / ボイド / ヘテロエピタキシャル成長 / 内部応力緩和 / シリコン表面炭化 / 炭化ケイ素バッファ層 / 窒化物半導体成長 |
研究実績の概要 |
本研究では,従来の薄膜成長で常識であった「欠陥や表面凹凸のない高品質基板を用いる」という概念の打破に挑戦する.すなわち,基板表面近傍に存在するボイド(特異構造)を用いた内部応力緩和により,異種基板上への高品質結晶成長技術を実現することを最終目標とし,Si基板上の窒化物半導体成長で解析・実証する.そのために,1) Si基板表面炭化によりSiC薄膜直下に自己形成される空隙(ボイド)を積極的に利用し,「表面平坦な自己形成ボイドSiC/Si基板」を作製する,2) 基板との物性値差により生じる内部応力をボイドで緩和させること,表面平坦なSiC薄膜を成長下地とすること,の2点により,SiC/Si基板上に高品質窒化物半導体層を成長する,3) ボイドの存在による内部応力緩和と窒化物半導体層の結晶性との相関を定量的に解析することにより,さまざまな異種材料成長系に適用可能な普遍的な学理を構築する,を行う. 平成29年度は,研究代表者が所属機関を異動したことにともない,上記の目的を達成するため,Si表面炭化を行う小型反応装置,COガス除害設備の立ち上げ・配管接続等を行った.除害設備・炭化反応炉の真空系については正常に動作することを確認した.一方,反応炉の加熱については,熱電対による測温に工夫が必要であることが,ヒータ出力が不足していること,炉部材から外部への放熱が当初予想より大きいこと,が判明した.測温・放熱の問題については平成29年度にほぼ解決できたが,加熱については平成30年度に引き続き検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者の所属機関異動にともなう装置の立ち上げに時間を要したため.また,炭化反応炉の加熱部および測温部の不具合・故障が相次いだ上,加熱部に改造が必要なことが判明したため.
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今後の研究の推進方策 |
1) Si表面炭化によるSiC/Si基板の作製 本研究の要となる,「表面平坦な自己形成ボイドSiC/Si基板」を得るための炭化条件を確立する.まず炭化実験に必要な炭化反応炉の改造を行う.炭化実験の制御パラメータとして炭化温度・CO分圧・基板オフ角の3点を検討し,これらが表面平坦性やボイド密度・サイズに与える影響を明らかにする. 2) 窒化物半導体の結晶成長・結晶性評価 1)で作製した自己形成ボイドSiC/Si基板上に,窒化物半導体(本研究ではGaN単層から開始し,AlGaN層を中心とする)を成長する.1)・2)で作製したSiC/Si基板および窒化物半導体層についてさまざまな評価を行い,SiC/Si基板の状態が窒化物半導体層の結晶性に与える影響を調べる.具体的には,表面平坦性・結晶配向性・膜厚・ボイド密度およびサイズ等の構造評価,転位密度等の微細構造評価,電気・光学特性評価を行う.なお,1)と2)は可能な限り並行して進め,得られた結果を互いにフィードバックする. 3) 内部応力の解析 窒化物半導体層の結晶性が良好な試料とそうでない試料を中心に,マクロ・ミクロ両方の観点から内部応力を解析する.2)で得られた結果との相関を調べることで,SiC/Si基板のボイドが,内部応力の緩和を通して窒化物半導体層の結晶性向上に与える影響を定量的に考察する.以上の知見から普遍的な学理を抽出し,提案手法を他材料系にも広く適用可能な技術として確立する.
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