研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
17H05325
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
谷川 智之 東北大学, 金属材料研究所, 講師 (90633537)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 窒化物半導体 / 有機金属気相成長 / 分極 |
研究実績の概要 |
窒化物半導体の分極効果を能動的に利用して伝導制御を実現するための技術確立を目指す。分極誘起層としてAlGaあるいはInGaNを用いる。分極誘起層とGaNとのヘテロ接合を形成すると、ヘテロ界面に分極不連続が発生する。分極不連続は固定電荷として機能し、電子あるいは正孔を界面に引き寄せる。その結果、ヘテロ界面近傍に電荷蓄積層を形成する。この効果を利用すると、トランジスタのチャネルとして機能する二次元電子ガスの濃度を増加させたり、トンネル接合の電流を増加させることができる。 上記の機能発現を確認するために、素子構造を有機金属気相成長法により作製する。必要な要素技術は、極性制御技術、分極機能層の成長技術、p型ドーピングである。極性制御技術はこれまでに確率した技術を用いる。平成29年度は分極機能層の成長技術について検討した。 サファイア基板上に有機金属気相成長法を用いてN極性GaN薄膜を成長させ、その上にAlGaN薄膜およびInGaN薄膜を成長させた。試料構造はInGaN/AlGaN/GaN構造とした。成長後の試料に対して、X線回折測定により混晶組成、膜厚、および歪を調べた。ホール効果測定を用いてInGaN/AlGaN界面に形成される二次元電子ガス濃度を測定した。 まず、GaN/AlGaN/GaN構造を成長させ、歪成長可能なAlGaNの混晶組成を調べた。その結果、AlGaNのAlNモル分率が0.32以下において格子緩和が起こらないことを確認した。この試料に対しホール効果測定を行ったところ、1平方センチメートルあたりのシートキャリア濃度が10の13乗台で、移動度が1200以上であり、二次元電子ガスが形成されることを確認した。次に最上層をInGaNとした試料を作製し、InNモル分立が0.11以下において歪成長し、シートキャリア濃度が二倍程度まで増加することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標は、窒化物半導体の分極効果を能動的に利用して伝導制御を実現するための技術の確立である。デバイスの例として、分極誘起ツェナーダイオードを提案している。このデバイスを作製するためには、有機金属気相成長法を用いた混晶薄膜の成長技術とドーピング技術が必要不可欠である。混晶薄膜として、AlGaNおよびInGaNが候補であるが、これらはGaNと格子定数が一致しないため、歪成長可能な組成およ膜厚で素子を作製する必要がある。 平成29年度は、有機金属気相成長法を用いてN極性GaN薄膜上にAlGaN薄膜およびInGaN薄膜の成長を行い、両薄膜において歪成長な組成と膜厚について知見を得ることができた。この結果は、分極誘起層の作製にあたり採用可能な構造設計が可能となる。さらに、ヘテロ界面に電子が蓄積され、二次元電子ガス濃度が混晶組成によって変化する結果が得られた。これは、ヘテロ界面に蓄積される電子の濃度が分極不連続量に依存していることを示唆しており、本研究で目標としている分極効果が能動的に作用している結果を表している。 以上の理由から、本研究課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、分極誘起ツェナーダイオードを実現するための構造設計と作製を行う。構造設計にあたり、シュレディンガー方程式とポアソン方程式を自己無頓着に解き、バンドとキャリア濃度のプロファイルを求める。p型GaN層とn型GaN層の間に分極誘起層を挿入した時にヘテロ界面に誘起されるキャリア濃度を見積もり、混晶組成あるいは膜厚によってどの程度変化するか、計算により知見を得る。設計する組成および膜厚は、平成29年度に実験的に求めた、歪可能な構造の範囲とする。 試料作製には、有機金属気相成長法を用いる。サファイア基板上にアンドープのN極性GaN薄膜を成長させる。その上に、n型GaN薄膜、分極誘起層、p型GaN薄膜の順に成長させる。作製した試料の構造特性をX線回折測定と原子間力顕微鏡および透過電子顕微鏡によって観察する。次に、フォトリソグラフィー、ドライエッチング、および蒸着によりp型GaN層とn型GaN層に電極を形成し、電気特性を評価する。容量-電圧特性によりpn接合界面に形成される空乏層幅を求め、分極誘起層の有無や分極不連続量の大きさと空乏層幅との関係を明らかにする。電流-電圧特性によりトンネル電流が発生する電圧や抵抗を測定する。
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