窒化物半導体の分極効果を能動的に利用して伝導制御を実現するための技術確立を目指す。分極誘起層としてAlGaNあるいはInGaNを用いる。分極誘起層とGaNとのヘテロ接合を形成した際にヘテロ界面に有機される分極不連続を固定電荷とみなすことができる。この効果を利用すると、トランジスタのチャネルとして機能する二次元電子ガスの濃度を増加させ、トンネル接合の電流を増加させることができる。これまでの研究では、分極機能層の結晶成長を行った。サファイア基板上に有機金属気相成長法を用いてN極性GaN薄膜を成長させ、その上にAlGaN薄膜およびInGaN薄膜を成長させた。まず、GaN/AlGaN/GaN構造において歪成長可能なAlGaNの混晶組成を明らかにし、最上層のGaNをInGaNとした試料を作製し、InNモル分率が0.11以下において歪成長し、シートキャリア濃度が二倍程度まで増加することを確認した。 平成30年度は、窒化物半導体薄膜およびデバイスの特異構造を明らかにするために、サファイア基板上にヘテロ成長したGaNの欠陥を透過電子顕微鏡により観察し、極性による違いを調べた。Ga極性GaNと比較した結果、N極性GaNでは螺旋転位密度が極めて低いことと、バッファ層近傍に特異な積層欠陥が発生することが分かった。また、GaNやAlGaNとの分極不連続量が極めて大きくなる高InNモル分率InGaNをGaN上にヘテロ成長させた。結晶成長中の格子緩和過程をX線逆格子マッピング測定のその場観察により調べた。その結果、InNモル分率0.30のInGaNでは、10 nm程度の成長初期から速やかに格子緩和していることが分かった。さらに、成長中の極性により成長膜の結晶構造に違いが表れた。III族極性成長ではウルツ鉱型構造を維持した。一方、N極性成長では格子緩和の初期はウルツ鉱型構造を維持するものの、格子緩和後の結晶成長の進行に伴い閃亜鉛鉱構造の割合が増加することが分かった。
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