研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
17H05327
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木口 賢紀 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (70311660)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | GaN / InGaN / 貫通転位 / 積層欠陥 / 局所弾性場 / 電子構造 / 光学特性 / 結晶成長 |
研究実績の概要 |
窒化物半導体・酸化物半導体薄膜では、残留する格子欠陥や歪みが電子・光学デバイスの物性向上や創製の障害となってきた。本研究では、これら結晶の非完全性についてナノスケールからミクロンスケール、かつ2次元から3次元のマルチスケールで解明し、III族極性及びN極性の2種類の試料についてGaN表面、GaN/InGaN量子井戸構造やGaN/サファイア基板界面における格子欠陥や弾性場をマルチスケールで「特異構造の結晶科学」に関する結晶成長機構や組織設計指針の究明を目指し、以下の進捗があった。 (1)1-5μmの膜厚の断面試料を研磨・イオンミリング法、ならびにFIB法により作製する条件を確立し、以下の実験に資する薄片化条件を確立した。(2)FIB-SEMセクショニング法によりミクロンスケールでの特異構造としてヒロック構造の3次元形態を明らかにした。(3)GaN/InGaN量子井戸構造やGaN/サファイア基板界面におけるミスフィット転位、貫通転位、転位ループ、積層欠陥を原子分解能からサブミクロンのマルチスケールで解析し、極性の違いによって貫通転位や低温バッファ層に存在する積層欠陥の構造、形態、密度が異なり、貫通転位の構造、形態、密度に大きな違いが生じる事実を見出した。(4)積層欠陥、貫通転位、量子井戸構造に伴う局所弾性場を明らかにし、量子井戸構造に伴う整合弾性場や積層欠陥が貫通転位と弾性相互作用を引き起こし、転位の湾曲、消滅、発生の原因となることを見出した。(5)これらの格子欠陥近傍のN原子の電子状態のエネルギー損失吸収端微細構造解析から、格子欠陥に伴う弾性場やInGaN層の組成変調が局所的な電子状態を変調し、誘電関数や損失関数といった光学的性質に大きな変化をもたらすことを明らかにした。これらの知見に基づいて、格子欠陥を介した局所弾性場による光学特性向上のための指針が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、未経験のGaNの薄片化技術の確立から行う必要があり、再現性良く薄片化する条件探索におよそ半年を要したが、III族極性とN極性のGaNで貫通転位の密度、種類、形状に多くなさいがあることを見出した。前者では、湾曲したa+c転位とa転位が支配的であるのに対し、後者ではほぼ直線的な形態のa転位が支配的であった。これらの差違は、N極性の結晶成長時にサファイア基板の表面窒化処理により結晶成長メカニズムが異なることを示唆する。特に低温バッファ層における積層欠陥の種類、サイズ、密度が異なりこれらが貫通転位の成長に影響を及ぼしていると考えられる。また、InGaN量子井戸における積層欠陥の有無により貫通転位の弾性相互作用、成長・消滅が起こることを見出した。さらに格子欠陥に付随した弾性場やInGaN層の組成変調が局所的な電子状態を変調し、光学的性質に大きな変化をもたらすことを明らかにした。 以上3項目について窒化物中における構造の特異性を見出すことができたことから、概ね順調に進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に見出した研究成果を核にして、貫通転位の種類(a,c,a+c及び刃状、らせん、混合)が結晶成長、特に表面のピットやヒロックの成長に及ぼす効果、多層量子井戸構造における貫通転位との弾性相互作用、InGaN層の組成変調を解析し、電子・光学特性に及ぼす局所電子状態と対応づけることで、窒化物における特異構造と電子・光学特性の局所的な対応を調べ、特異構造を制御した窒化物結晶成長の指導原理を見出す。また、Ga2O3など酸化物材料にも展開する。
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