研究実績の概要 |
窒化物半導体・酸化物半導体薄膜では、残留する格子欠陥や歪みといった特異構造が電子・光学デバイスの結晶成長や物性発現において重要な役割を果たす。本研究では、窒化物極性材料GaN/InGaN量子井戸構造をはじめ、酸化物極性材料としてHfO2基及びZrO2基強誘電相のドメイン構造、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3・Pb(Zr,Ti)O3薄膜の組成相境界構造や非鉛系(K,Na)NbO3圧電体膜などの特異構造について、電子顕微鏡を活用してマルチスケールな観点から、特異構造の関与する微細組織形成機構を明らかにした。これまでの主要な成果として、以下の知見を明らかにした。 (1)GaN/InGaN量子井戸構造やGaN/サファイア基板界面におけるミスフィット転位、貫通転位、積層欠陥をマルチスケールで解析し、極性の違いによってこれら特異構造に大きな違いが生じることを見出した。(2)積層欠陥、量子井戸構造に伴う局所弾性場を介して貫通転位と弾性相互作用を引き起こし、転位の湾曲、消滅、発生の原因となることを見出した。(3)これら特異構造が酸化物の結晶成長に及ぼす効果を調べ、HfO2基及びZrO2基強誘電相のドメイン構造や電子状態の特異性、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3における組成相境界における特異な2相共存組織がミスフィット転位などに起因する局所弾性場によって誘起されることを組織学的観点から実証した。以上のように、窒化物や酸化物が内包する特異構造が結晶成長機構を通じて電子物性発現に大きな役割を果たすことを明らかにした。
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