SiC(炭化ケイ素)はSiに代わる次世代パワーデバイス材料として注目されている。SiC中の転位や積層欠陥は、パワーデバイスの性能や信頼性に影響を与えるため、欠陥密度の低減が求められている。SiCパワーデバイスにおいては、積層欠陥の形成が問題になっている。バイポーラデバイスにおいて、順方向動作時に基底面転位からショックレー型積層欠陥(SSF)が拡張し、順方向電圧が降下する現象が報告されている。同様の積層欠陥の拡張は、紫外線照射によっても生じるため、キャリアの再結合が関与していると考えられている。しかしながら、積層欠陥の拡張メカニズムは未だ不明である。 本研究では、パワーデバイスにおける劣化現象を逆手に取り、SiC結晶中の積層欠陥を外部からのシグナル(紫外光の照射、電圧印加)によってアクティブに積層欠陥を制御することを目指す。このために、本研究では、紫外光照射その場X線トポグラフィ観察と、キャリアライフタイムの測定により、積層欠陥拡張現象を定量化し、転位論と半導体物理をブリッジングする物理モデルを構築することを目的としている。 2017年度に構築したその場観察システムを活用し、2018年度は積層欠陥の拡張収縮条件の明確化を行った。その結果、100℃以上の比較的低温においても、紫外光照射により、部分転位の運動により、積層欠陥が拡張することが明らかとなった。また、照射強度を低く、温度を高くすることにより、積層欠陥は拡張から収縮に変化することも明らかとなった。温度と紫外光照射強度を系統的に変化させ、積層欠陥の拡張・収縮挙動を観察とキャリアライフタイム測定の結果から、紫外光照射により励起されたキャリアが積層欠陥と部分転位において選択的に再結合をするが、紫外光照射や電圧印加による積層欠陥挙動の駆動力となっていることが示唆された。
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