窒化物半導体を用いた発光デバイスにおいて、非発光領域の成長によって発光効率が低下する現象が問題となっている。発光効率低下によるデバイスの劣化を抑え、素子寿命を担保するためには非発光領域成長機構の解明が不可欠である。非発光領域は点欠陥が欠陥反応により集合することで成長すると考えられているが、欠陥反応の機構は現在までほとんど未解明である。欠陥反応は特異構造を介した電子系-フォノン系間のエネルギー転換が原因で起こる。先行研究では、簡単な配位座標モデルを用いた欠陥反応シミュレーションによって、エネルギー転換が起り得る条件が示されたが、モデルが一般的であったため、具体的な材料において現実に条件が満たされるか否かを明らかにする必要がある。本研究では最も基本的な特異構造である欠陥を対象に、そこでの電子系とフォノン系の間のエネルギー転換機構の理論的解明を行うことを目的としている。具体的には、窒化物の典型的な特異構造を対象に、電子状態とフォノン構造を第一原理計算によって求める。定量的に算出される各種物性値を基に、特異構造を介して電子系から格子系へのエネルギー転換が起こるダイナミクスを理論的に明らかにする。 当年度は、本研究を通して注目しているGaN中のGa空孔(VGa)にに対して、荷電状態における電子状態及び振動状態の解析を行った。前年度の結果と合わせて、VGaは欠陥反応につながるフォノンキック機構を引き起こす条件を、中性状態・荷電状態で共に満たしていることを示した。これらの結果により、VGa周りで起こる欠陥反応のミクロな機構が明らかになった。欠陥反応によって、VGaからNGa- VNの複合欠陥へと特異構造が変形することをあきらかにした。成果をまとめ、原著論文を3報発表した。また、学会発表として、招待講演1件、国際会議での発表6件、国内学会での発表3件をおこなった。
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