研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
17H05343
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
高橋 正光 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, グループリーダー(定常) (00354986)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | その場放射光X線回折 / 窒化物半導体特異構造 |
研究実績の概要 |
本研究では、III族窒化物の極薄膜領域で形成される特異な結晶構造の形成条件を確立し、エレクトロニクスへの応用可能性を追究するために不可欠な精密な構造の確定と、それに基づく基礎的物性の理論的・実験的検証をおこなう。構造評価には放射光施設SPring-8の量研機構専用ビームラインBL11XUに設置されているRFプラズマ支援窒化物MBE装置とX線回折計とが組み合わされた装置を用い、特異な結晶構造の探索と構造決定、さらに基礎的な光物性の測定も視野に入れている。 平成29年度は、第一に、6H-SiC(0001)基板上に成長させたAlN超薄膜において、表面垂直方向の格子定数が、通常の弾性ひずみでは説明できない程度に短くなっていることが見出された。この結果については、本領域が主催した国際会議International Workshop on UV Materials and Devices(IWUMD 2017)で報告した。この現象を説明するため、領域内の計算科学グループと連携し、第一原理計算の結果と比較検討中である。 第二に、MBE成長中にGaN表面上に形成されるGa吸着層の秩序構造について調べた。MBE成長中の表面を再現するため、650℃に保ったGaN(0001)基板に80秒間Gaを蒸着し、引き続きGaの供給を止めて再蒸発させる過程で、表面構造に敏感なCrystal Truncation Rod (CTR) 散乱強度の時間変化を測定した。Ga吸着層形成にともなう構造変化が観測され、GaN表面上のGa吸着層は表面垂直方向、面内方向に周期的な秩序構造を有していることがわかった。 第三に、大気中での測定が困難な極薄膜特異構造の物性評価手法を開発するため、放射光励起発光分光をGaNテンプレート基板に対しておこない、測定可能性を示した。今後、極薄膜への適用を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の当初計画においては、放射光施設SPring-8の量研機構専用ビームラインBL11XUに設置されているRFプラズマ支援窒化物MBE装置とX線回折計とが組み合わされた装置を用い、各種基板上に成長させたIII族窒化物半導体の極薄膜の構造決定を試み、未知の構造多形の探索を進めることとしていた。また、それらの結果は、計画班、とくに、理論グループと緊密に連携し、構造安定性やバンド計算など、理論的観点からの検討を加える計画であった。 研究の対象とする基板には、特異構造の形成に関して既報があるAg(111)から開始する予定で、基板も調達した。しかし、研究の過程で、電子デバイスとしての応用の観点からより重要なSiC(0001)基板上のAlN極薄膜において、特異構造の形成を示唆する結果が得られたため、その確認を優先することとした。計画班の理論グループとの連携も順調に進んだ。金属基板上の薄膜の分析は、平成30年度に実施できる見通しである。 特異構造の探索の他、特異構造が形成するメカニズムを解明するための研究および光物性の評価については、計画を先取りする進展が見られた。 成果発表については、本領域主催による国際会議International Workshop on UV Materials and Devices(IWUMD 2017)をはじめ、応用物理学会、放射光学会での口頭発表・ポスター発表を積極的におこなった。 以上のように、本研究課題は、研究項目の優先順位を変更した関係で、一部未実施の項目があったものの、当初の計画以外の進捗もあり、総じて順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、金属基板上を含めた各種基板上に成長させたIII族窒化物半導体の薄膜領域での結晶構造の解析を進めるとともに、作製されたIII族窒化物極薄膜の発光スペクトルを測定し、基礎的な光物性を評価する。平成29年度の成果を基盤とし、計画班内の計算科学グループと緊密に連携しながら、構造安定性やバンド計算など、理論的観点からの検討も援用しつつ、極薄膜領域におけるIII族窒化物半導体の定量的な構造決定を進める。また、特異構造の形成メカニズムを明らかにする観点から、GaNおよびInNの結晶成長中の表面に形成されるIII族金属の液体層の構造を精密に決定する。面方位や材料の違いによる表面構造の違いも追究する。平成29年度に実施可能性が立証された、放射光励起発光スペクトル測定をIII族窒化物極薄膜に応用していく。
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