本研究は、III族窒化物の極薄膜領域で形成される特異な結晶構造の形成条件を確立し、エレクトロニクスへの応用を念頭に置きつつ、その可能性を追究するために不可欠な精密な構造の確定と、それに基づく基礎的物性の理論的・実験的検証をおこなうことを目的としている。実験には放射光施設SPring-8の量研機構専用ビームラインBL11XUに設置されているRFプラズマ支援窒化物分子線エピタキシー(MBE)装置とX線回折計とが組み合わされた装置を用いた。 平成30年度は、MBE成長中にGaN表面上に形成されるGa吸着層の秩序構造について詳細な解析をおこなった。表面特異構造といえる数原子程度のごく薄いGa層 が、液体のままGaN表面に対してランダムに吸着しているのか、それとも結晶である基板の影響を受けてある程度の秩序をもつのかは、成長する結晶の品質を左右しうる重要な問題である。そこで本研究では、成長中のその場表面X線回折により、表面の原子配列を定量的に決定した。平成29年度には、GaN(0001)上で、Ga 吸着層が表面垂直方向にも面内方向にも秩序をもっていることを確認していたが、今年度はさらに進んで、測定されたX線回折強度を、構造モデルに基づくシミュレーションと定量的に比較することで、Ga吸着層の三次元的な原子配列を決定した。さらに、GaN(000-1)面上のGa吸着層の構造も同様の方法で解析し、表面垂直方向にはGaN(0001)と同様に層状構造を形成するが、面内方向には秩序を持たないランダムな配列をすることを明らかにした。 本研究の結果は、面方位に依存するGaNの成長様式の違いと、成長フロントの原子レベルの構造との相関を明らかにした意義があり、高品質なGaN結晶成長に向けた重要な知見となる。表面X線回折で決定された構造は、領域内の計算科学グループと連携し、第一原理計算の結果と比較検討され、GaN(000-1)面上のGa層の吸着量などについて、Gaの理論的な予測とよく一致する結果を得た。
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