脂肪族ポリカルボニル化合物から誘導される柔軟な多座配位子である脂肪族ポリイミン配位子を用いて、自己組織化錯体の合成と構造制御に成功した。原料となる脂肪族ポリカルボニル化合物を単分散で最大C100の長さ、アセチルアセトン単量体を基準にして20量体まで合成することに成功したことで、脂肪族ポリイミン配位子も最大で40個のイミン部位をもつ長さ約13 nmのものまで合成することができた。これらの脂肪族ポリイミン配位子(2量体)を用いて、パラジウムイオンとの自己集合を行ったところ、配位部位であるイソピラゾール環(ジイミン)上で、パラジウムイオンの当量に応じた段階的な配位結合形成が起こることを見出した。そこで、パラジウムイオンの厳密な当量変化と濃度によるエントロピー制御を組み合わせることで、同じ金属塩と有機配位子の組み合わせから、3つの異なる単分散構造をつくり出すことができた。この手法をさらに長鎖の4量体に適用したところ、構造が収束する当量比と金属:配位子比率を予測しながら自己組織化錯体をつくり出すことができた。また、脂肪族ポリイミン配位子(2量体)が2分子とパラジウムイオン3つから成る錯体では内部に小さいながらも空孔を有しており、分子認識場として使える可能性が示された。 実用的な分子認識場の構築は、脂肪族ポリイミン配位子(2量体)とニッケルイオンによって達成できた。ここでは、塩化ニッケルとの錯形成により、配位子3:ニッケル3のプロペラキラリティーを有するカチオン性錯体が得られた。この錯体は、キラルアニオンの認識に有効なボウル型形状をしていることが単結晶X線構造解析から分かった。この化合物を共結晶化やHPLCなどにより光学分割することを試みたが、分離ができなかったため、配位子に不斉部位を持つ置換基を導入し、ジアステレオマーの精製を行った。
|