研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05351
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中村 貴志 筑波大学, 数理物質系, 助教 (90734103)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超分子 / 錯体 / 自己集積 / 非対称化 / 配位結合 / シクロデキストリン / アミド / 分子認識 |
研究実績の概要 |
本研究では、配位駆動自己集積の特長である一段階での巨大構造形成と非対称化を伴う異方的構造形成とを同時実現し、さらに、一義的に構築した複雑巨大自己集積錯体の内部空間および金属配列の異方性を生かした機能を開拓することを目的とする。 等価な配位部位を7つ導入した配位子は、その配位駆動自己集積において立体的に閉じた小さい構造を形成しにくいことから、一段階での巨大構造形成と非対称化を伴う異方的構造形成に適した構成要素になりうる。平成29年度は、7つの官能基を導入した機能性分子の合成手法の確立と機能開拓を目指し、5位にカルボキシ基をもつβ-シクロデキストリン(βCD)誘導体に対してアミンを縮合した、アミド基を有する新規なβCD誘導体の合成に成功した。p-トリルアミド基を導入した誘導体のX線結晶構造解析の結果、アミド基同士の水素結合および置換基同士の立体障害によってトリル基の一つが大きく外側に傾き、CD骨格が真円から大きく歪んだ特徴的な構造を有していた。また内孔には5つの水分子が存在し、アミド基などの多数の官能基と複雑な水素結合ネットワークをつくっていた。 また、7つのアミド基をもつβCD誘導体は、内孔におけるアミド基との水素結合を生かしたアニオン認識能を示した。具体的には、クロロホルム中において、ホスホン酸イオン、リン酸イオン、スルホン酸イオンなどを結合し、特にホスホン酸イオンに対して強く結合した。一方、カルボン酸イオンとはほとんど相互作用せず、顕著な選択性が明らかとなった。ホスホン酸イオンの包接錯体のX線結晶構造解析の結果、アミドβCD誘導体は内孔において、4つのアミド基水素および1つのアミド基酸素によってホスホン酸イオンと多点水素結合していた。一方、ホスホン酸イオンとの水素結合に関与しない2つのアミド基は隣接するアミド基と水素結合し、環骨格のコンホメーション固定に寄与していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度では、非対称な超分子構造形成のためのビルディングブロックとして、縮合反応により7つのアミド基を導入したβシクロデキストリン誘導体を合成した。この分子は、等価な部位を7つ導入した構造であるにも関わらず、それぞれの官能基が個別の役割を発揮することで非対称な認識空間を形成し、その構造に基づく精密な分子認識能を実現することが示された。これは、本研究の目的に合致する成果であり、今後、アミド基の先に様々な配位部位を導入することで、配位駆動自己集積を利用した一義的な複雑巨大超分子錯体の合成につながると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度では、縮合反応により7つのアミド基を導入したβシクロデキストリン誘導体の合成法を確立し、詳細な構造解析を行い、またその特異な分子認識能を見出した。平成30年度ではこの知見を生かし、配位部位を7つ導入したβシクロデキストリン誘導体の合成とその自己集積錯体の形成、さらにその錯体の機能開拓を目指す。特に、2,2´-ビピリジル (bpy) 基をアミド縮合によりピラノース環に直接結合し、7つのbpy基を導入した誘導体1を合成する。1は剛直な骨格を有することから取りうる配座が制限されることを利用し、金属イオンMとの段階的な分子内・分子間の錯形成によって、複雑巨大自己集積錯体M_14・1_6を一義的に構築する。そして、低対称性の内部空間を分子認識場や反応場として利用する検討を行い、 さらにアシンメトリックな金属配列と配位環境に由来する光学物性や磁気物性の開拓を行う。
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