研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
17H05353
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
稲見 栄一 千葉大学, 大学院工学研究院, 特任講師 (40420418)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 / 原子・分子操作 / 機能性ナノ材料 / 分子 / ナノクラスター |
研究実績の概要 |
本研究では、走査型プローブ顕微鏡を用いた原子・分子操作技術を活用して、単一のナノクラスターや分子の新しい機能・特性を探る。さらに、自己組織化法により、ナノクラスター・分子を高密度に集積化させて、その諸特性を明らかにする。以上の研究を通じて、単一のナノクラスター・分子を機能単位としたエレクトロニクスの基礎を開拓する。 本年度は、主に「単一分子の機能創製」、およびそのデバイス化へ向けた「自己組織化単分子膜の作成」に関する研究を行った。 単一分子を対象とした研究では、分子の局所配位子場が1つの磁性原子の電子状態に及ぼす影響を明らかにした。走査型トンネル顕微鏡の原子操作技術を活用して、フタロシアニン単分子上の異なる場所へ、鉄単原子を精密に配置させ、3種類の鉄-フタロシアニン複合体を作成することに成功した。さらに走査トンネル分光測定から、分子上の異なるサイトに配置させた鉄単原子では、電子状態とそれに伴った電子スピンが大きく変化することを見出した。本結果は、単一分子上で鉄原子の吸着位置を制御することで、電子スピンの制御が可能であることを示している。 一方、自己組織化単分子膜の研究では、実用的デバイス実現に不可欠な「室温環境で安定な単分子膜」の実現に向けて、鉄基板上でフタロシアニンン分子膜の作成を試みた。その結果、鉄基板の第二層目以上で緻密な分子膜が形成され、その構造は室温環境においても長時間安定に保たれることを発見した。 さらに、鉄基板上での膜形成メカニズムをトンネル分光測定および動的モンテカルロシミュレーションにより研究した。これにより、室温で安定な単分子膜の形成には、原子レベルで平坦かつ清浄な鉄表面に発現する3d電子軌道が重要な役割を果たすことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ナノクラスター・分子を機能単位としたエレクトロニクスの基礎開拓を目的としている。当初計画していたナノクラスタースイッチ(鉛3量体)のデバイス化へ向けた研究では、鉛3量体の最適な自己組織化条件を見出せず、研究が停滞してる。一方で、分子を対象とした研究では、原子操作および自己組織化の研究で共に、高機能ナノデバイス実現の基盤となる重要な成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
ナノクラスターを対象とした研究では、引き続き鉛3量体の最適な自己組織化条件を探っていく。また、分子を対象とした研究では、29年度に行った単分子と磁性原子との相互作用に関する研究をさらに発展させ、自己組織化分子膜上での磁性原子吸着状態を調べる。
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