ナノグラフェンは原子レベルで構造制御されたグラフェンの部分構造であり、分子間に働く強力なπ-π相互作用を利用して、様々な超分子構造体形成が試みられてきた(Aida et al. Science 2004)。一方、ナノグラフェンの広大な「π共役表面」を機能性部位として用いる試みは、理論研究を除き行われていない。「ナノグラフェンに囲まれた空間はどのような機能を発現するのか?」この基礎科学的な問いから、申請者は、金属-有機構造体(MOF)を足場としたナノグラフェン表面を有する多孔性材料:ナノグラフェンMOFの合成に挑んだ。ナノグラフェン自体は堅く、平坦な構造をしているが、ナノグラフェンMOFは取り込むゲスト分子へ適応して穴の形状・サイズを変化させる興味深い現象を見出した。本成果はナノグラフェン表面の性質に切り込んだ基礎科学的な点に加え、多孔性カーボン材料の新たな可能性を見出した点で極めて意義深い。MOF中のナノグラフェン部位はカルボキシレートと亜鉛イオンとの配位結合二点のみで固定されており、回転自由度が与えられている。この回転自由度の存在が、ナノグラフェンMOFに破格の機能を発現させることを見出した。二酸化炭素やアセチレン、プロパン、プロピレンなどのガス分子を吸着させたところ、全てに共通してヒステリシスを伴う多段階の吸着過程を示した。吸脱着におけるヒステリシスは、細孔内に取り込んだガス分子を保持する能力が高いことを意味しており、ガス貯蔵への応用が期待できる。また、導入するゲスト分子の種類によってナノグラフェンのコンフォメーション変化の様子は全く異なる。これらの結果は一般的な二次元層状化合物の層間拡張現象と著しく異なっており、ナノグラフェンMOFがゲストに適応してナノグラフェン部位を回転させながら細孔構造を変化させるという特異な吸着メカニズムによって初めて実現可能となる現象である。
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